ー ときの話題 ー §44
1 アメフラシ
2 公海保護条約(BBNJ協定)発効
3 気になるニュース・トピック・心配ごと
⑴ 渦鞭毛藻(うずべんもうそう)
⑵ 漁業法改正後の現状と課題
⑶ オホーツク海の流氷この冬は?
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1 アメフラシ
昨今、山火事や住宅火災が頻発していますが、「アメフラシ」が伝説・伝承・言い伝えの中で何かしら降雨や雨乞いと関連があるのか?と思い調べてみましたが、一般的に「いじめると雨が降り海が時化(しけ)る」のほか、「海の神様の使い」「紫の墨は魔除け、厄除け」「海の子守」などとして一部地方では大切にされていたようで、また、薩摩地方(鹿児島県)の一部では「雨が降ると山中に出現する伝説上の虫?」とされているそうです。体を突いたり手で触ったりして刺激をを与えると紫色の粘着性液体を分泌し、水中ではそれが体を包む「雲」の様に見えること、あるいは、梅雨の時期に多く見られ、産卵時期も重なることから「アメフラシ」と名付けられたようです。

アメフラシの画像
(出典:生物学御研究所編、相模湾産後鰓類図譜)・not edited.
我が国での生息域
日本の沿岸でごく身近に見られる海辺の生き物(15㌢ほど)で、磯場や潮溜りなど浅い海に多く生息しています。 日本各地の海岸で観察可能、春〜初夏には、冬季生活していた深場から浅瀬へ戻ってくるため、この季節に容易に見つけることができます。また、食性はほとんどが海藻を食べる草食性のため、藻場があり波が穏やかで、アオサ・ワカメ・カジメなど海藻が豊富な場所を好む。日本沿岸で見られる主な種は
- アメフラシ(学名・Aplysia kurodai Baba):Aplysiaは古ギリシャ語に由来し、「粘液で覆われた」を意味し、 kurodaiは日本の貝類研究の第一人者で、元日本貝類学会会長の黒田 徳米博士(くろだ とくべい、1886 ~ 1987)への献名で、Babaは日本の¹後鰓類学者、馬場 菊太郎博士(ばば きくたろう、1905~2001)への献名なのだそうです。
- ¹後鰓類(こうさいるい):軟体動物の中の一群で、貝殻を持たないか、ごく小さい貝殻しかない種、ウミウシやアメフラシ、クリオネなどが含まれる。「後鰓」とは、「えら(鰓)」が体の後ろの方にあるのが特徴。
- アマクサアメフラシ(A. juliana):熊本県の天草地方の海岸に多く生息、日本を含む西太平洋、インド洋、大西洋など広い範囲に分布、体長は最大で30㌢ほどに達し、体色は褐色を基調に明るい斑紋や暗い斑紋が入るなど個体によって差異がある。特徴は、腹足の後端に吸盤があることに加え、刺激を受けた際には紫色ではなく白い液体を出すのだそうです。
- サガミアメフラシ(A. sagamiana):相模湾由来の名前ですが、沖縄(南西諸島)にも観察記録があります。希少性が高い種で、体の色が淡い褐色、紫色、朱赤色などに変る(擬態?)。体長は最大で約7㌢ほどで小さい。
などで、その他、クロヘリアメフラシ・ミドリアメフラシ・ショウワアメフラシ・クサモチアメフラシ・トゲアメフラシ・ジャノメアメフラシも希にですが見ることができるようです。
分類
伝統的な分類では、腹足綱後鰓亜綱無楯目とされていましたが、現在は、後鰓類を正式な分類群として認められず、軟体動物門腹足綱無楯目(:むじゅんもく、盾〔貝殻〕を持たないという意味で、ウミウシやナメクジの仲間)としています。アメフラシの貝殻は退化して、背中の外套膜の中に変形した薄い板状の殻の痕跡があるが、貝殻が完全に消失してしまっている種も存在している。アメフラシの英名Sea hareは「海のウサギ」という意味で、頭部の二本の突起(触覚?)をウサギの耳に見立てている。中国で名前も「海兎」と呼ばれているそうです。
アメフラシ属は日本沿岸以外にも世界中の海岸に生息しています。種類によって大きさも色も様々で、なかでも米国のカリフォルニアやメキシコ北部、フロリダに生息するジャンボアメフラシ (Aplysia californica)は最大級とされ、体長は約1㍍、体重は10㌕を超えることもあるとか!

赤紫色の粘着性液体を出すジャンボアメフラシの画像(出典:ウィキぺディア、クリエイティブ・コモンズ表示-継承 4.0 国際)
(著者 ジェニー・アンダーソンさん)・not edited.
生態
動きは超スローで、種によっては泳ぐこともあるらしいですが、著者自身は泳いでいるシーンを目撃したことはありません!
目はあるか?
光を感じる程度の目はあるらしい!上の写真をよく観察すると角(つの)の基部に小さな目?が確認できますが定かではありません。
繁殖
雌雄同体で頭の方に雄の生殖器官を、背中に雌の生殖器官を持つ。前方の個体の雌の器官に、後方の個体が雄の器官を挿入するといった形で、何個体もつながって交尾する。このような交尾形態は「連鎖交尾」と呼ばれています。春から夏にかけて繁殖のために磯に現われ、一匹が生む卵は数万個、黄色く細長い麺(海素麺〔ウミソーメン〕とも呼ばれる。)のような卵塊で、卵は約2週間ほどで孵化し、プランクトンとして海中を泳ぎ回った後に海底で生活し成長する。寿命は1-2年だそうです。
食性
基本的に海藻を食べる草食性が中心で、沿岸の藻場でアオサ・ワカメ・カジメ(緑藻類や褐藻類など)の大型藻類を主食としていますが、一部のアメフラシ類は動物性の餌(例:オキアミなどの小動物)を摂っているという報告もあります。
毒性
アメフラシが²シガトキシンを持つ海藻類を食べると、その毒がアメフラシに蓄積されている可能性があるため注意が必要です。食用している地域では毒の元となる海藻類が生息していないとされているため食べても問題はないですが、気候変動(海水温度の上昇や海流の変化など)により海藻の植生が変化している可能性もあります。
²シガトキシン(Ciguatoxin):³シガテラ食中毒の原因となる強力な神経毒で、元々はサンゴ礁にすむ微細な藻類(渦鞭毛藻:うずべんもうそう、Gambierdiscus属など)が作り、それを食べた小魚→中型魚→大型魚へと食物連鎖で内臓・皮・頭部・卵巣などに蓄積されていく。
³シガテラ食中毒:熱帯や亜熱帯のサンゴ礁に生息する魚を食べて起こる食中毒のこと。
- 症状:しびれ、吐き気、冷たいものが熱く感じるなど。
- 特徴:加熱しても毒は消えないので、調理しても無毒化できない。
- 原因:魚に溜まった「シガトキシン」という毒素が原因。
- 判別:外観や匂いなどでは判別不能!
シガテラ食中毒・要注意魚(厚生労働省ホームページより)
日本で中毒原因となる有毒種は、主にフエダイ科フエダイ属のバラフエダイ、イッテンフエダイ、イトヒキフエダイ属のイトヒキフエダイ、ハタ科バラハタ属のバラハタ、マハタ属のアカマダラハタ、スジアラ属のオオアオノメアラ、アズキハタ属のアズキハタ、イシダイ科イシダイ属のイシガキダイ、クチジロ、アジ科ブリ属のヒラマサなどが挙げられている。
アメフラシは食べられるのか?
昭和天皇のエピソードなど
昭和天皇(裕仁天皇)の御研究課題がヒドロゾア(クラゲやイソギンチャクの仲間)であったことは知られるところです。葉山御用邸前の相模湾で海洋生物の採集を行い、ヒドロゾアや粘菌など、分類が難しい生物に深い関心を持って研究を続けられたそうですが、侍従長の話で、陛下は3度ほど茹でたアメフラシを食べてみたことがあるらしく、きっと、御用邸前の海岸で採集した新鮮なアメフラシだったのではないかと想像しています。
また、沖縄地方では、アメフラシの卵や、シャコ貝、アオサ、モズク、ナマコ、貝類など、潮が引いたときに現れる浅瀬で採れる生き物が「イノーの幸」として親しまれ、酢の物や和え物にして食べられるているそうです。(イノー:沖縄の方言で、サンゴ礁に囲まれた浅い海のこと)
アメフラシの地方名
- べこ:島根県隠岐島
- ござら:千葉県太平洋岸
- うみしか:鳥取県
- あめこ:東北地方(一部)
- あめのこ:九州(一部)
など。
研究対象のとしてのアメフラシ
アメフラシの神経の細胞は、直径0.2 ~ 1 ㍉と哺乳類の10倍の大きさがあり、さらに神経回路が単純であることから神経生理学の研究モデルとして用いられ、記憶や学習についての基礎研究の発展に貢献したそうです。
コロンビア大学のエリック・カンデル教授は、アメフラシを使って、⁴シナプスが変化することで記憶が形成される仕組みを明らかにし、2000年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
⁴シナプス:神経細胞間あるいは神経細胞と他種細胞間に形成される神経伝達などの神経活動に関わる接合部位とその構造のこと。化学シナプス(小胞シナプス)と電気シナプス(無小胞シナプス)、および両者が混在する混合シナプスに分けられる。
また、名古屋大学、筑波大学、理化学研究所、などの研究グループは、アメフラシが分泌する紫色の体液に制癌作用があるとして追究が続けられています。
さらには、一部のアメフラシが自己再生能力を持っていることが明らかになり、体の一部を失っても再生する能力や、神経系の再構築に関する可能性が指摘されている。これが将来的に人間の神経再生や再生医療技術に応用できるかもしれないと期待されているところです。
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2 公海保護条約(BBNJ協定)発効
公海保護条約(BBNJ協定:Biodiversity Beyond National Jurisdiction)とは、国家の管轄権を超える海域(公海)における生物多様性の保全と持続可能な利用を目的とした国際条約です。2023年に国連で採択され、2025年9月に60か国の批准を達成、120日後の今年1月17日に発効しました。正式名称は「国家管轄権外区域における海洋生物多様性の保全と持続可能な利用に関する協定」(Agreement on the Conservation and Sustainable Use of Marine Biological Diversity of Areas Beyond National Jurisdiction)です。
この条約は、気候変動や海洋酸性化、乱獲などで脅かされる公海の生態系を守るための国際的な一歩と位置付けられています。

BBNJ協定概念図(出典:外務省HP)・not edited.
BBNJ協定の概念
「公海や深海底など、どの国の領域にも属さない海域における生物多様性を守り、持続可能に利用するためのルールを定めるもの」と云うことができます。
協定の4つの柱
- 海洋遺伝資源(⁵MGRs)とその利益配分:公海で採取される微生物や深海生物の遺伝資源の利用と、その利益の公正な配分に関するルールを定めます。先進国と途上国の間の公平性が重視されています。
- 海洋保護区(⁶ABMTs)とその他の管理手段:生物多様性のホットスポットを保護するため、公海上に海洋保護区(Marine Protected Areas)を設置し、持続可能な利用を促進するための空間的・時間的な管理手段を導入します。
- 環境影響評価(⁷EIA):公海での活動(例:深海採掘、海底ケーブル敷設など)が環境に与える影響を事前に評価し、必要に応じて対策を講じる仕組みを整備します。
- 能力構築と海洋技術の移転:途上国がBBNJ協定の実施に参加できるよう、科学的・技術的な能力構築や海洋技術の移転を支援します。
⁵MGRs(Marine Genetic Resources/海洋遺伝資源):海洋に生息する生物が持つ遺伝的な情報や特性のことを指します。たとえば、深海に住む微生物やサンゴ、魚類、海藻などが持つDNAや酵素、化学物質などが含まれます。医薬品開発、化粧品や食品、バイオテクノロジーへの応用が期待されています。
⁶ABMTs(Area-Based Management Tools/区域ベースの管理手段):特定の海域を対象にして、生物多様性の保全や持続可能な利用を目的とした空間的な管理方法のことで、海洋保護区、漁業制限区域、一時的な閉鎖区域の設定や船舶航路の指定、航行の制限等を含みます。
⁷EIA(Environmental Impact Assessment/環境影響評価):ある活動が環境や生態系にどのような影響を及ぼすかを事前に調査し、科学的データに基づいて評価するプロセスのこと。
この4本柱は、海洋の持続可能な利用と保全のバランスをとるための基盤となっており、国際社会が協力して「海の憲法」とも言われる国連海洋法条約(UNCLOS)を補完する重要な協定となっています。
国内の動き
BBNJ協定の発効に伴い、日本国内では複数の関係省庁が連携して制度整備や実務対応を進めているところです。
- 外務省
- 国際交渉の主導:BBNJ協定の採択交渉に積極的に関与し、2025年12月に正式に加入。
- 条約の国内承認手続き:2025年5月の国会承認を得て、国内法との整合性を調整。
- 外交的調整:他の国との連携や非締約国との情報共有の枠組みづくりを担当。
- 環境省
- 環境影響評価制度の整備
- 2025年6月に「公海等における環境影響評価の実施に関するガイドライン」を公表済。
- 国内事業者が公海で活動する際の手続きや評価基準を明確化。
- ⁸クリアリングハウスメカニズム(CHM)への情報提供体制の構築。
- 環境影響評価制度の整備
- 国土交通省
- 海洋政策全般の調整役
- BBNJ協定の国内実施に関する総合政策を調整。
- 海洋空間計画や海洋保護区の設定に関する国内制度との整合性を検討。
- 海洋調査・航行の安全確保
- 海洋政策全般の調整役
- 水産庁
- 漁業活動への影響評価と対応
- 公海漁業に対するEIA義務や保護区設定による操業制限への対応。
- 漁業者への説明・調整、代替措置の検討。
- 国際漁業管理機関(国連公海漁業協定に基づく機関など)との整合性確保
- 漁業活動への影響評価と対応
- 経済産業省
- 海洋遺伝資源の利用と利益配分に関する制度設計。
- バイオ産業や深海資源開発に関わる民間企業との調整。
⁸クリアリングハウスメカニズム(CHM):公海に関する知識と活動についての情報共有と協力のための国際的な仕組みのこと。
BBNJ協定の発効に伴う日本の立ち位置
- 科学的知見の提供者としての役割:日本は海洋科学、特に水産資源や海洋生態系に関する研究で世界的に高い評価を受けています。BBNJ協定の締約国の中では、海洋遺伝資源へのアクセスと利益配分、環境影響評価などに科学的根拠が求められることとなるため、日本の研究機関、大学、科学者が持つ知見と果たすべき役割は重要となります。
- 海洋国家としての責任と利害:日本は四方を海に囲まれた海洋国家であり、公海での漁業活動や海底鉱物資源の開発に特に大きな関心を持っています。BBNJ協定はこれらの活動に新たな規制をもたらす可能性があるため、経済的利益と環境保全のバランスをどう取るかが課題となります。
- 地域的枠組みとの整合性:日本はすでに多くの地域漁業管理機関(RFMOs)に加盟しており、BBNJ協定との整合性をどう確保していくかが焦点となります。特に、既存の枠組みと新たな国際ルールの重複や矛盾をどう調整するかが問われます。
- 技術移転と能力構築への支援:BBNJ協定では、開発途上国への技術移転や能力構築支援が重要視されています。日本はODAやJICAなどを通じて、海洋観測技術や資源管理のノウハウを共有することで、国際的な信頼と影響力をさらに高めるチャンスがあります。
- 国内法との整合と制度整備:協定の発効に伴い、日本国内でも関連法制度の整備が必要となり、海洋遺伝資源の取り扱いや環境影響評価の手続きに関する法的枠組みの見直しが必要になります。
協定の発効の意義と今後の展望
協定は国連海洋法条約(UNCLOS)を補完し、気候変動の影響を受ける海洋生態系の回復力を高めるために200以上の国・地域が関与した交渉の成果であり、国境を越える課題に対して、国や国際機関、市民社会、企業、科学者などが協力してルールを模索し、問題を解決していく仕組みや工程への新たなモデルと言うことができます。
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3 気になるニュース・トピック・心配ごと
⑴ 渦鞭毛藻(うずべんもうそう)
渦鞭毛藻(うずべんもうそう)は、2本の鞭毛を持つ単細胞の藻類で、海や淡水に広く分布するプランクトンの一種です。光合成する種と捕食する種が混在し、一部の種は赤潮や有毒化で漁業・養殖に大きな影響を与えます。

渦鞭毛藻の画像(出典:ねこのしっぽ)・not edited.
概要
すべての渦鞭毛藻が有毒なわけではありませんが、一部の属、ギムノディニウム属、アレキサンドリウム属、カレニア属などに属する種は海水温や栄養塩等の条件が整うと急激に増殖し、赤潮や貝毒の原因になることがあります。 日本では各地の水産試験場や自治体が定期的にモニタリングを行い、出荷制限などの対策を講じています。
春から夏にかけての夜の海岸で青白く光る夜光虫を見ることがありますが、この種もノクチルカと名付けられた渦鞭毛藻の仲間で、物理的刺激を受けると発光してノスタルジックな雰囲気を演出してくれますが、大量発生すると赤潮の原因にもなる。
形態
渦鞭毛藻(うずべんもうそう)は、海中や淡水に住んでいる単細胞の微生物(プランクトン)で、一般的に2本の鞭毛を持ち、1本は体の周囲を横に巻き、もう1本は後方に伸びている。これで水中をクルクルとらせん状に回転しながら泳ぎ回ります。多くは葉緑体を持ち光合成しますが、他の微生物を捕食する種もいる。中には両方の機能を具備する種も存在しています。また、細胞表面にセルロースで出来た装甲を持つ種と細胞膜だけの種に大きく2つに分かれます。外観は球形、楕円形、角ばった形、角(つの)状の突起を持つものなど多彩です。
渦鞭毛藻は、環境条件の変化(海水温度の低下・低栄養・光量不足・攪乱など)や生活の過程で、厚い殻を持つシスト(休眠胞子)を形成し、海底に沈んで長期間生存します。シストは環境が好適になると発芽して遊泳細胞に戻り、その後の条件が整えば大増殖して赤潮の発生につながります。
属と種
- 既知の属数:およそ200〜300属以上。
- 記載種数:2,000~2500種、未記載の種も含めると数千種規模となる。
愛媛県の貝毒検出事例
愛媛県愛南町・御荘湾で養殖マガキに規制値を超える麻痺性貝毒が検出されたことを受け、同湾を“採取・出荷規制区域”に指定した旨の公式発表がありました。
https://www.pref.ehime.jp/page/103796.html
⑵ 漁業法改正後の現状と課題
2018年改正・2020年施行の新・漁業法は「資源管理の高度化」と「成長産業化」を掲げましたが、施行から数年を経ても、現場では制度の浸透不足・運用の遅れ・人材不足など複合的な課題が残っているようです。
漁業法改正後の現状
- TAC・IQ・科学的評価による資源管理は進展したものの地域差が大きく、沿岸部の小規模漁業ではデータ取得・管理体制が弱いため制度の実効性に地域差がある。また、国のロードマップは整備されたが、現場での理解や合意形成が追いつかないケースもある。
- 海面利用制度(漁業権)の付与プロセスの透明化は進んだが、公募制度の導入に関しては各自治体でばらつきがあり、自治体の審査能力・人員不足により、実際の公募運用は限定的で、また、既存漁協との調整に時間がかかり、制度が十分に活用されていない地域も多い。
- IUU(違法・無報告・無規制の漁業)対策や流通適正化法(違法漁獲物の流通防止)の整備は前進しているものの、トレーサビリティの強化は中小事業者の事務負担増が大きい。
- スマート水産業(ICT〔情報通信技術〕・AI・自動化の導入)は進展してはいるが、初期投資の高さ・人材不足・通信環境の制約により普及は限定的である。
漁業法改正後に浮上した課題
- 制度の目的が現場に十分に周知・共有されていない。資源管理=漁獲量削減という誤解が根強い。
- データ不足と科学的管理の基盤の弱さ。
- 沿岸漁業では漁獲データの精度・頻度が不十分。
- 資源評価の更新頻度や調査体制も魚種によって偏りがある。
- 結果として、数量管理の精度が地域・魚種で大きく異なる。
- 自治体の行政能力・人員不足
- 漁業権審査、海面利用調整、資源管理計画の策定など、自治体の負担が急増している。
- 地方では水産行政職員の減少が深刻で、制度運用が追いつかない。
- 担い手(後継者)不足・高齢化が制度の実効性を阻害している。
- 漁業者の平均年齢は60歳前後である。
- 新制度に対応するためのICT活用・記録管理・申請業務が負担となり、高齢漁業者ほど制度離れが進む。
- 養殖業の成長産業化は進むが、環境変動リスクが増大している。
- 国は養殖を成長産業の柱として推進しているが、海水温上昇・赤潮・病害の増加により、生産リスクが制度設計を上回るスピードで拡大してきている。
- 地域コミュニティと新規参入企業との摩擦。
- 公募制度により企業参入が可能になったが、既存漁協との調整、地域慣行との衝突、利益配分の不透明さなど、社会的受容性の課題が顕在化。
漁業法の改正は「方向性は正しい」としても、運用と現場支援が追いついておらず、制度設計は国際標準に近づいたものの、現場の実装力・データ基盤・人材確保がネックとなっています。特に沿岸漁業では、制度の複雑化が負担となり、目的である「所得向上」や「成長産業化」に結びついていない地域が多いとされています。
⑶ オホーツク海の流氷この冬は?


上記3葉の出典:気象庁HP、オホーツク海の海氷分布図より・not edited.
昨冬は最小値の線を下まわってしまうのではないかとヒヤヒヤしていましたが、なんとか最小値の上側で推移しました。今冬の経過(赤太線)はとうとう最小値の線を一部下まわりました。地球温暖化の指標として注目しているところです。
北海道オホーツク海側、紋別市のホームページでは1月25日に流氷初日を迎えた旨発表がありました。昨年(2月1日)より7日早く、平年(1月24日)より1日遅い初日だそうです。

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四方海話88 ーときの話題ー §44 おわり
次回は 四方海話89 ーときの話題ー §45 です。

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