ー ときの話題 ー §15
スウェイツ氷河(南極)
スノーボールアース?
「ジュゴン」のこと❕
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スウェイツ氷河
南極大陸の西海岸にある世界最大級の氷河で「ドゥームズデー(最後の審判の日・この世の終わりの日)氷河」という恐ろしい異名で呼ばれています。

スウェイツ氷河の位置(赤矢印):(出典・ウィキペデア:赤矢印:筆者加筆)
研究者によれば、スウェイツ氷河先端の海底堆積物コアを分析したところ、1940年代から著しく後退(融解)し始め、原因として強力なエルニーニョ現象が関係し、地球温暖化の影響が反映した可能性があることが判明したとのこと、スウェイツ氷河の隣には「パインアイランド氷河」があり、こちらも急速に後退が進んでいて、これらの融解進めば世界規模の壊滅的な洪水を引き起こしかねないとして、警鐘を鳴らしています。
氷河は、大きく分けるとその発達地域により「山岳氷河」(世界中の山岳地域に確認できる)と「大陸氷河」(主に南極大陸と北極圏のグリーンランドに存在している)に分けることができます。ちなみに、かつて極東地域においては、カムチャッカ半島にある山岳氷河が南限で日本列島には存在しないとされていましたが、1999年富山県、立山の内蔵助(くらのすけ)カール内で永久凍土が見つかり、数年間の継続調査により持続性と流動性が確認されたことにより「日本雪氷学会」が氷河であることを認定しました。その後、他の「雪渓」でも調査が進められ、日本国内の氷河は諸外国の氷河と比べると規模は小さいながら、2019年の時点で7ヶ所が確認されています。温暖化の影響で消滅しないことを祈ります。
氷河は、1550年頃から1850年頃まで、太陽活動の低下が主因とされる「小氷期」が原因で発達したと考えられますが、1940年代頃までは小氷期から温暖化に移行し、融解が地球全体で進んだとされています。1950年代から1970年代にかけて融解の進行ペースが一時的に緩んだものの、1980年代以降は再び融解が加速しているのだそうです。
2023年4月、世界気象機関(WMO)は、世界の氷河が2020年に劇的なペースで融解したことを明らかにし、WMOのペッテリ・ターラス事務局長は、「氷河を救う試みはすでに敗北した」との見解を示しています。
ティッピング・ポイントとティッピング・エレメントについて(環境省、IPCC解説資料より)
「ティッピング・ポイント」とは、少しずつの変化が急激な変化に変わってしまう転換点を意味します。気候変動についても、人為起源の変化があるレベルを超えると、気候システムにしばしば不可逆性を伴うような大規模な変化が生じる可能性があることが指摘されています。地球環境の激変をもたらすこのような事象は、「ティッピング・エレメント」と呼ばれています。現在指摘されているティッピング・エレメントの例として、グリーンランドや南極の氷床の不安定化などが挙げられています。
IPCCの「海洋・雪氷圏特別報告書」(2019年発表)においては、グリーンランド氷床の衰退について突然発生する可能性は少ないものの、一旦起きてしまうと何千年もの間、元に戻すことができないとしています。また、氷山による船舶の航行への影響や海面上昇に大きな影響があることは言うまでもありません。
西南極の一部の氷床の崩壊については、*¹RCP8.5シナリオの場合には21世紀後半に突然起こるとしていて、起きてしまうとグリーンランドの氷床と同様に何千年も元に戻すことができないとし、これは、海面上昇と海の塩分濃度の局所的低下に大きな影響を与えると指摘しています。
*¹RCP8.5シナリオ:気候学上の用語で、放射強制力を意味します。RCP(Representative Concentration Pathways)は気候予測において用いられる放射強制力の略称。RCPの後の数値(単位はW/m²)が大きいほど、2100年の放射強制力が大きいことを意味します。IPCC AR6 (気候変動に関する政府間パネル・第6次評価報告書の中では将来の社会経済の発展傾向を仮定したSSP(Shared Socioeconomic Pathways)シナリオと放射強制力を組み合わせたシナリオが採用されています。

SSPシナリオとRCPシナリオの対称表(出典:環境省資料)
環境省が2020年に発表したIPCC「海洋・雪氷圏特別報告書」の解説資料に「スウェイツ氷河」の融解についての模式図がありましたので貼り付けておきます。

スウェイツ氷河の溶解についての模式図(出典:環境省資料、原典:IPCC SROCC)
IPCC SROCC:「変化する気候下での海洋雪氷圏に関するIPCC特別報告書」
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スノーボールアース?
46億年の地球史の中で主な氷河期は現在もふくめて6度あった(異説あり)とされています。新しいものから順に列記すると
- 第四紀氷河時代(現在) ・・・約2,588百万年前~現在
- カル―氷期 ・・・約3億6千万年前~約2億6千万年前
- アンデス・サハラ氷期 ・・・約4億5千万年前~約4億2千万年前
- クライオジェニアン氷河期・・・約7億2千万年前~約6億3千5百万年前(スターティアン・マリノア氷期を含む)
- ヒューロニアン氷河期 ・・・約24億5千万年前~約21億年前
- ボンゴラ氷河期 ・・・約29億年前~約27億8千万年前
氷河期のなかでも特に寒冷な時期を「氷期」、氷期と氷期の間の温暖な時期を「間氷期」と云いますが、現在の地球は第四紀氷河時代の間氷期にあります。
スノーボールアース(雪球地球・全球凍結・全地球凍結)は、上記6回の氷河期のなかでヒューロニアン氷河期の末期(24億~21億年前頃)とクライオジェニアン氷河期の末期(7億~6億年前頃)に、地球の表面全体が氷に覆われるほどの激しい氷期があったとする仮説(スノーボールアース仮説)ですが、現在では地球史の研究者の間で主流を占めるまでになっています❕
この仮説の以前は、高温のマグマに覆われた地球形成直後の状態から次第に冷えて、温暖期と寒冷期(氷河期)を繰り返しながら現在に至ったとして、地球全体が完全に凍結したことはなかったと考えられていましたが、南極以外の世界各地でこの時期の氷河堆積物(礫や砂など)が発見されていて、この中には古地磁気分析(岩石に残された残留磁気を分析することで、地磁気の逆転や大陸移動の様子などが調べられる)で当時赤道周辺にあったと推定される場所も含まれていたほか、炭素同位体の分析の結果、この期間(スノーボールアースの期間)中、全地球的に植物による光合成が殆ど停止していたことなどが科学的根拠として挙げられています。
地球上の水は何処からやってきたのか?海はどのようにできた?なぜ海水は塩辛い?など、根源的なハテナについては、まだ未解明な部分も多く、素人の我々には探求する術もなく研究者にお任せするしかないところではありますが、地球が誕生してから約20億年が経過したころ、地球表面の多くは海に覆われていて大きな陸地がなかったが、大規模な火山活動により大陸が急激に成長し、降水等により大陸から海に大量に供給された金属イオンによって二酸化炭素が炭酸塩鉱物として海底地殻上に沈殿、固定されたために、大気中の二酸化炭素濃度が低下、温室効果も下がり、地表は寒冷化して原生代初期のスノーボールアースへの道筋が始まったと説明されています。
- 温室効果が低下し地球全体の寒冷化が進行、極地から次第に氷床が拡大した。アルベド効果(:物体表面で反射される光の割合。表面が雪、氷のように白いと反射率が大きくなる)により寒冷化が進む。
- 寒冷化がさらに進み、氷床の厚みは最大3,000㍍程度にまで達し、その状態が数千万年~数億年間続いたとみられている。
- 凍結を免れた深海底や海底熱水鉱床付近あるいは火山活動が活発な地域では、温熱により僅かに生命体が生存していた。また、火山活動により温室効果ガスの供給は続いていた。
- 大気中の温室効果ガス濃度が高くなると、気温が上昇して極地以外の氷床の解凍が進むと同時に規模の大きな嵐や台風が頻繁に発生し、岩石の風化や大量降水により、さらに大量の金属イオンが海に供給された。また、海底に堆積していた沈殿物は、嵐や台風により海水が撹拌され表層部にも舞い上がった。
- 大気中の高濃度の二酸化炭素は海水中に溶け込み、表層部に舞い上がった金属イオンと結合を繰り返し炭酸塩類が形成されて海底に沈降、沈殿した。
- 海底の沈殿物や陸地から絶え間なく供給が続く栄養塩類(窒素、リン、ケイ素など)は、光合成をする単細胞生物(シアノバクテリアなど)に取り込まれ光合成が促進されるとともに増殖、拡散し、地球上に大量の酸素が蓄積していった。
- 古原生代(約25億年前~約18億年前)のスノーボールアース期間(約23億年前~約22億年前)には、酸素呼吸をする真核生物(しんかくせいぶつ:細胞核を持つ細胞から構成される生物群で、動植物・菌類・原生生物を含む)の繁栄があったとされています。
- 新原生代(約10億年前~約5億4100万)のスノーボールアース期間(約7億年前~約6億年前)では、一部の生物は海中の高濃度の酸素を利用して、動物にとって必須のコラーゲンを合成、獲得し、単細胞間の接合が促され多細胞生物が現出したとしています。
ということになりますと、スノーボールアース仮説は「動物(人類を含む)の起源に関わる地球史上の重大イベントのひとつ」との位置付けになるわけですが、将来、仮説ではなく事実として教科書に載ることになるのでしょうか?
チャールズ・ダーウィン(1809~1882・英国の地質学者、生物学者)は進化論の中で、「太古から、生物の進化がゆっくりと進んできたはずである」と説いたものの、そうであれば、「先カンブリア時代の地層から様々な多細胞生物の化石が発見されるはずで、それが発見されないのは謎である」旨、述べたとか⁉
ダーウィン博士の進化論は一部科学者から疑問視され「生物の進化は、長時間をかけ次第に進化する速度の遅いプロセスである」との主張では、カンブリア紀(約5億4100万年前~約4億8540万年前)に起こったとされる「カンブリア爆発」(約5億4200万年前~約4億8800万年前に生物の種類が約1万種から30万種に爆発的に増加した現象)と矛盾し、この現象を説明できないとの指摘を受けた由。しかしながら、新たな発見と論理(推論)の組立てを繰り返すことで発展する科学の世界ですから、ダーウィン博士の業績に敬意を表すると共に、将来の新発見と新理論の発展・展開に大いに期待します。
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「ジュゴン」のこと!
沖縄周辺の海浜で、ごく少数ながら生息している絶滅危惧種です。1972年、国の天然記念物に指定された後、日本哺乳類学会では1997年、南西諸島の「ジュゴン」を絶滅危惧種に指定しました。2000年に開催された国際自然保護連合(IUCN)の総会では、沖縄本島の「ノグチゲラ」「ヤンバルクイナ」と共に保護の決議が採択され、また、2003年からは鳥獣保護法で捕獲・殺傷が禁止されています。
ジュゴンの分布は、アフリカ大陸東岸のモザンビーク北部、対岸のマダガスカル島北西部、紅海、ペルシャ湾、インド、インドシナ半島、ボルネオ島、ニューギニア島、ニューカレドニア、バヌアツ諸島、オーストラリア大陸北部、日本(沖縄)で、2017年時点で合計約5,500頭が生息しているとのことですが、かつて生存が確認されたマダガスカル島やモーリシャス諸島、台湾では絶滅した由。密漁や生活排水や汚水、農地開発に伴う赤土の流出、海岸の埋立により藻場が減少し餌場が少なくなったことなどが原因に挙げられ、さらに生息数は減っています。また、沖縄県では明治時代中頃からダイナマイト漁業が盛んに行なわれジュゴンの捕獲量が増加した。1902年(明治35年)同漁業は禁止されたものの密漁は太平洋戦争後の食糧難の時代まで続き、ジュゴンの生息数が激減した大きな原因といわれています。
神経質で飼育が非常に難しく、現在は世界中でオーストラリアのシドニー水族館と日本の鳥羽水族館(三重県)の2ヶ所、2頭のみとなっています。

鳥羽水族館で飼育中のジュゴン「セレナ」(著者撮影:2024年3月)
(全長260㌢、体重380㌕)
鳥羽水族館の他、大分県や沖縄県の水族館でも飼育にチャレンジしたそうですが、入館すると間もなく死んでしまったとか!鳥羽水族館の「セレナ」(雌)が同館に来たのは1987年(昭和62年)4月、当時まだ1才(推定)だったそうですから現在38才ということになります。入館したときに既に「ジュンイチ」という雄のジュゴンが居て、暫くの間、一緒の水槽で生活していましたが子供はできなかったそうです。「セレナ」は日々、世界最長飼育記録を更新しています。

「セレナ」の横顔(著者撮影:写真の上中央は耳孔)
奄美群島から沖縄諸島では「ザン」、宮古島では「ヨナタマ」、西表島は「ザノ」などの方言で呼ばれていました。日本各地に伝説が残る「八百比丘尼」(やおびくに)が八百才の命を得たのはジュゴンの肉を食べたためだとして、不老不死の効能を持つとされるほか、沖縄地方では、神が「ニライカナイ」(辰巳の方角の海底にあると伝わる異界)と現世とを往復する際に乗り物として使っていたとされるなど日本人との関りは深いものがあります。
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四方海話 58 ー ときの話題 ー §15 「おわり」
次回は 四方海話 59 ー ときの話題 ー §16 です。

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