四方海話 59

ー ときの話題 ー  §16

PFAS

パンサラッサ(古太平洋)

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PFAS

 PFAS(ぺルフルオロアルキル化合物)については以前(昨年9月)にも掲載しました。復習になりますが、PFASとは「有機フッ素化合物」(4700種以上:一説には10,000種以上とも)の総称で、その中で有毒性があると指摘される「PFOS」「PFOA」は、各地の地下水や河川・水道水から国の暫定基準(:目標値50Ng/L)を超える高濃度で検出されるケースが相次いでいるほか、世界中の水域や土壌、さらには人間や動物の血液中にも蓄積されつつあります。「化学物質の審査及び製造の規制に関する法律」(化審法)の第一種特定化学物質に新たに「PFHxS」が加わりました。

 用途

  • フライパンなどの表面コーティング(焦げ付き防止)
  • 揚げ物などの包装用紙
  • 衣類の撥水加工(撥水スプレーなど)
  • タッチパネル表面のコーティング
  • 泡消火剤
  • スキー・スノボの滑走面のコーティング
  • 歯間フロス
  • 化粧品(ファンデーションなど)
  • マットレス(シミ防止加工など)
  • カーケア用品(防滴剤・スプレーワックスなど)
  • 半導体製造

 人の健康への影響

 科学的・医学的な研究は現在進行中ではありますが、影響があるとされている人の健康へのリスクは

  • コレステロール値の上昇(動脈硬化の原因)懸念される
  • 肝臓がんの原因となる可能性がある
  • 抗体応答の低下(ワクチンの効果を低下させる)を招く
  • 胎児や乳児の成長・発達への潜在的影響があると推定される
  • 子供や妊娠中の人の血中濃度が一定限度を超えると、健康リスクが高まるといわれている

 規制と監視

  • PFASの一部(PFOS・PFOA・PFHxSなど)は条約(POPs条約:残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)により製造・流通を禁止または制限されている
  • WHO(世界保健機構)は飲料水中のPFAS濃度についての基準を推奨している(PFOS・PFOAの濃度については100Ng/L以下など)
  • 日本は暫定目標値(50Ng/L : 地下水・河川のPFOS・PFOAの合計値)が設定されている

 PFOS(ぺルフルオロオクタンスルホン酸)・PFOA(ぺルフルオロオクタン酸)

 1940年代にアメリカの化学製品製造会社(スリーエム社、デュポン社など)で開発された界面活性剤(親水性、親油性が高い)100パーセント化学合成物質です。

 特性など

  • 自然界では殆ど分解されない・・・「永遠の化学物質」
  • 野生動物(鳥類、海洋性哺乳類など)の臓器、血液、筋肉などに高濃度で残留するとともに、人間でも、職業的にPFOSに暴露される人の血液からは高濃度のPFOSが検出されている
  • アメリカではほぼ全ての人の血清からPFOSが検出されたが、濃度は時間経過とともに減少傾向
  • 成人においては、PFOS血中濃度増加と甲状腺ホルモンの分泌量の変動に相関関係があるとされている
  • アメリカの12~15才の児童に血中濃度と注意欠陥多動性障害との関連性が指摘されている
  • 不妊など生殖能力にも悪影響がある可能性が示唆されている
  • 2023年、市民団体による東京都多摩地区の一部の住民を対象とした血液検査では、全参加者の平均値が10.8ppb(10億分率)だった由

 日本では、2021年(令和3年)10月「化学物質の審査及び製造者の規制に関する法律」(化審法)でPFOSが「第一種特定化学物質」に指定され、製造と輸入が許可制となったことにより事実上は全廃されたことになります。

 PFHxS(ぺルフルオロヘキサンスルホン酸)

 特性など 

  • PFOAやPFOSへの規制が強化される中で、代用品として製造、利用されてきたPFASの一種です
  • 人の体内に取り込まれると排出されず蓄積される
  • 甲状腺や肝臓、神経系への影響が報告されているが、研究結果の蓄積が不充分で未だ不明な点も多く、発がん性への影響についても指摘されるものの有力な研究報告がない
  • 日本国内での製造、輸入量は不明である
  • これまでに国内で製造あるいは輸入された製品は、相当量が環境中に拡散していると思われる
  • WHO(世界保健機関)の飲料水についての水質ガイドラインは未設定
  • 今年(2024年)2月、第一種特定化学物質に指定された(化審法改正)

 PFHxSの規制

 今年(2024年)6月以降、国内製造とPFHxSを使用している一定の製品の輸入が禁止されることとなります。

 自治体等の調査結果など

 東京都の調査結果

 今年(2024年)3月末、東京都の発表によれば、令和3年度から都内の自治体で地下水のPFAS調査を実施し、21の自治体の調査地点で国の暫定目標値(50Ng/L)を超える値が検出されたとし、新年度(令和6年度)も同様の規模で調査を続けるとしています。

 しかしながら、水生動物(川魚)の臓器や肉にも残留が認められている以上、地下水のみならず「河川水およびその河川の水底土砂はもちろんのこと「東京湾の海水と海底堆積物についても調査範囲を拡大し、拡散状況を把握しておく必要があると思うのですが? 

 環境省の調査結果

 同じく、環境省が行った令和4年度の水質調査結果が公表され、全国38都道府県の河川、地下水などの調査地点1,258地点のうち、16都府県、111の地点で暫定目標値を超えていた由

 高濃度の地点と濃度

  • 大阪府摂津市の地下水  21,000Ng/L(目標値の420倍)
  • 大阪府摂津市の河川水   2,200Ng/L(目標値の44倍)
  • 沖縄県嘉手納町の地下水   2,100Ng/L(目標値の42倍)

が検出されたとのことで、暫定目標値を超えた111地点のうち排出源が特定できているのは大分市内で過去にPFASを取り扱っていた工場跡地の井戸(2ヶ所)のみで、残りは全て不明だそうです。

 農水省の調査

 食品に含まれているPFASについての初めての調査が実施されます。対象は

  • 米、キャベツなど農産物4品目
  • 牛肉、牛乳、卵など畜産物5品目
  • マイワシ、アユなど水産物5品目

としていますが、「とりあえず」感が否めず、農地・牧草地の土壌、水源、肥料、家畜の餌なども含め、調査範囲の拡大と調査結果の早期公表が待たれます。

 横須賀市の調査 

 横須賀市にはアメリカ海軍横須賀基地があります。海軍基地では所属艦艇の装備品や基地設備である消火器や泡消火剤の定期交換のため、大量のPFOSの処理が必要となることは理解できますが、排水処理施設の処理能力向上や分解処理技術の導入などにより海域への排出は止めなければなりません。また、市が実施した水質測定結果(米海軍横須賀基地周辺7ヶ所)ではいずれも暫定目標値を下回ったとしていますが、この結果はあくまで水質 のみで、付近海域の海底堆積物や底着性の魚、海草については対象としていないことに注意してください。

 沖縄県の調査

 令和5年度有機フッ素化合物残留実態調査の水質調査(県内の40地点:分析対象物質はPFOS、PFOA、PFHxS)結果として公表されています。暫定指針値(50Ng/L)を超過したのは嘉手納町の比謝川(ひじゃがわ:米空軍嘉手納基地の近くを流れる二級河川)のみで、それ以外の河川では0.5~28Ng/Lの範囲、PFHxSに関しては指針値がなく評価できないとしながらも、0.2~53Ng/Lの範囲であったとしています。

 今月初旬の報道によれば、先月、沖縄県の「宜野湾浄化センター」「那覇浄化センター」「具志川浄化センター」「西原浄化センター」など下水処理場の汚泥について、PFOS・PFOAの検査を実施、その結果を公表しました。

  • 宜野湾浄化センター 16㎍/kg(1月の調査)
  • 那覇浄化センター  16㎍/kg
  • 具志川浄化センター  8㎍/kg (うるま市) 
  • 西原浄化センター   5㎍/kg

 汚泥については、暫定指針値のような基準となる値が設けられていないが、農作物の肥料として再利用されています。また、単位がマイクログラム(㎍)であることに注意が必要です。(1マイクログラム〔㎍〕=1,000ナノグラム〔Ng〕)

 沖縄県でも海底堆積物についてのデータがありません。河口付近の海底土砂についても調査対象に追加しなければならないものと思います。

 米国の規制強化

 米環境保護庁(EPA)は今月(2024年4月)、PFASについて飲料水(水道水)の含有基準を決定しました。日本の基準を大幅に下回る内容となり、PFOS・PFOAそれぞれを「4Ng/L」として、強制力がない目標値は廃止したほか、PFNAやPFHxSなど他の3種のPFASと、2種以上のPFAS混合物については基準値を「10Ng/L」と定めたとのこと。

 この新しい規制は、全米の6万6000の水道システムが対象となり、水道会社には今後3年以内に飲料水中のPFAS量を測定して情報公開するよう求められるとともに、基準を超えるPFASが測定された場合には5年以内に削減するよう対応を求められます。

 環境保護庁曰く、新規制で「PFASに曝される人が約一億人減り、数千人の死亡を防ぎ、数万人の重篤な病気(の人)が減る」として国民の理解を求めたとか!米国政府は州や自治体に対して、検査費用や対応を支援するため、総額約10億ドルを拠出するのだそうです。

 日本でもPFASの規制に関する議論が高まるのは必至な状況です。

 (参考)水道法(昭和32年法律第177号)

 (水質基準)

第四条 水道により供給される水は、次の各号に掲げる要件を備えるものでなければならない。

  1.  病原性物に汚染され、又は業原生物に汚染されたことを疑わせるような生物若しくは物質を含むものでないこと。
  2.  シアン、水銀その他の有毒物質を含まないこと。
  3.  銅、鉄、弗素、フェノールその他の物質をその許容量を超えて含まないこと。
  4.  異常な酸性又はアルカリ性を呈しないこと。
  5.  異常な臭味がないこと。ただし、消毒に臭味を除く。
  6.  外観は、ほとんど無色透明であること。

2 前項各号の基準に関して必要な事項は、環境省令で定める。

と規定されています。

 日本には「水に流す」という言葉があります。人と人の関係の中で発生したトラブルなどを水に流すことはおおいに結構ですが、川や海へ流すのは、ものによりけり!人や動植物に全く無害な物や腐敗して土に還る有機物ならばまだしも、有害か無害か判然としない、有害かもしれない、分解しない人工の化学物質等については、除去するための処理・回収技術や無害化への再処理技術が確立されない限り、川や土壌などの環境中(空気中も含む)に廃棄したり、放置するべきではありません。また、有効だし便利だから作った、売った、利益があった、買った、使った、捨てた、後のことは知らないヨ!などは民度が高いとされる日本国民として恥ずかしい!

 一方、製造者の責任についても、製造物責任法消費者保護法があるにせよ、その汚名は「永遠の化学物質」と同様、永遠に残ることになります。公害問題の再来にならないことを願うと同時に、海洋プラスチック問題と同じく、「気が付いたときには既に手遅れ」では「愚かな猿」に成り下がってしまいます。

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パンサラッサ(古太平洋)

 プレートテクトニクスの説明では、地球表面は厚さ約100㌖の十数枚の固い岩盤(プレート)で覆われていて、これらのプレートはマントル対流の力が作用することによって移動し、大陸どうしの衝突やプレートの沈み込みなどが起こると云われています。

主なプレートの概略位置図:出典ウィキペデア

  46億年の長~~い地球の歴史の中で、プレート上の大陸が移動し、ほとんど全ての大陸がひとつの大きな塊(超大陸)になった時代が何度かあったそうで、主な超大陸の古いものから順に

  •  バールバラ超大陸   約30億年前
  •  ケノーランド超大陸  約27億2,000万年前
  •  ローレンシア超大陸  約19億年前
  •  ロディニア超大陸   約11億年前~約7億5,000万年前
  •  パノティア超大陸   約6億2,000万年前~約5億5,500万年前
  •  パンゲア超大陸    約2億5,000万年前

などが挙げられていますが、このうち一番新しい「パンゲア超大陸」(下図の茶色部分)の外縁部分の海(青色部分)をパンサラッサ(古太平洋)と呼ばれています。

パンゲア超大陸(ペルム紀後期)の想像図(出典:ウィキぺディア)

 この時代は、地質時代の区分では古生代の「ペルム紀」(約2億9,900万年前~約2億5,100万年前)末ころと、中生代「三畳紀」(トリアス紀:約2億5,190万年前~約2億130万年前)の初頭に当たり、「P-T境界」(ペルム紀・トリアス紀の境界の意味)と名付けられ、全地球規模の気候変動があり、海陸を問わず地球史上最大の生物の大量絶滅(90~95%)があったと云われています。 

絶滅の規模・速さ 

 当時の地球上の生物をほとんど死滅させるほど大規模なものだったと推定されています。また、始まりから終わりまで約20万年程度しか要せず、短い期間で大量絶滅が起こりました。

絶滅の原因

  • 大規模火山活動による温室効果ガス(二酸化炭素やメタン)の大量放出に起因する急激かつ全地球的な温暖化が起こった
  • 洪水玄武岩(シベリア・トラップが年代的に近い):P-T境界のころに起こった玄武岩質溶岩の大量噴出と二酸化硫黄や窒素酸化物を含む火山性ガスの噴出により全地球的な酸性雨による影響があった
  • スーパーアノキシア(P-T境界のころに起こった大規模な海洋無酸素事変)光合成を行なう生物が死滅し、海水中の酸素濃度が著しく低下した。火山性ガスによる海洋酸性化の影響などが原因と推定されていますが、決定的な原因は特定できていない
  • 巨大隕石落下説:後に恐竜が絶滅したとされる「K-Pg境界」(約6,550万年前の中生代白亜紀と新生代第三紀との境界)のころに発生した小惑星衝突事変(メキシコ、ユカタン半島のチクシュルーブ・クレーターを想起)の影響と同一視され、痕跡として北米大陸やオーストラリア大陸、南極大陸でクレーターが発見されているものの因果関係は明確ではありません

生態系の劇的な変化

 陸上、海中を問わず、同時期に破滅的変化が生じ、生物の多様性が回復するのに約1,000万年も要したとのことから、P-T境界の後も長い期間、生物にとって生存を脅かす非常に厳しい環境であったことが伺えます。

パンサラッサで起こった大規模火山活動

 一般的に、三畳紀は高温で乾燥した時代とされているところ、後期のカーニアンと呼ばれる時期(2億3,700万年前~2億2,700万年前)には約200万年続いた「雨の時代」があったとし、これを「カーニアン多雨事象」と呼び、世界各地の地層にその痕跡が発見されています。

 東京大学、九州大学、神戸大学、早稲田大学、海洋研究開発機構の研究グループは、日本各地(大分県佐伯市、京都府南丹市、岐阜県山県市・同県坂祝町、岩手県下閉伊郡)のカーニアン期の地層に残された「チャート」と呼ばれる岩石を分析したところ、すべての地域のチャートから地球内部のマントル物質特有の「低いオスミウム同位体比」が検出されたとのことから、カーニアン期、パンサラッサの広い海域で巨大火成岩岩石区(:巨大なマントルプルームなどによって発生する大量のマグマにより、広大な範囲にわたり火成岩(玄武岩)が分布している地域のこと。≒洪水玄武岩)を形成した大規模な火山活動が起きていたことを明らかにしました。また、調査地域の地層で、バナジウムやウランなどの元素濃度変化から火山活動の末期に深海底が無酸素化したことを突き止めると同時に、チャート内に留まった化石の研究からは、無酸素化と同時期に「コノドント」(カンブリア紀から約3億年の長期間、命を繋いできた原始的脊椎動物のの化石)の多様性が著しく低下していたことが認められ、海洋の無酸素化が海洋生物を絶滅させた可能性を示しました。 <この項は、早稲田大学研究活動ニュース『三畳紀の「雨の時代」と海洋の生物絶滅』を参考としました。>  

「コノドント」を持つ「クリダグナサス」の想像図(出典:ウィキぺディア)

 「クリダグナサス」は、数㌢~数十㌢の長さで肉食(硬い歯を持つ)、現代の「ヤツメウナギ」や「ヌタウナギ」に近い種の由、一般的にクネクネ・ヌルヌル系の生き物は生命力が強く、高い生存戦略を持っている(ヌタウナギの粘液など)と云われていますが、この生物の一部は厳しい大量絶滅時代を生き延びたのでしょうか?

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四方海話 59  ー ときの話題 ー §16   「おわり」

次回は  四方海話 60  ー ときの話題 ー  §17 です。

  

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