第九話 その3 — 神話・伝説の船(舟) —
‥ 外国編 ‥
・ アルゴー号
ギリシャ神話に出てくる巨大な帆船。黄金の有翼羊の毛皮(ゴールデン・フリース)を探す冒険の旅のために建造された。乗組員には勇士50人が募集され、そのなかにはギリシャの英雄「ヘラクレス」も含まれていたそうです。

アルゴー号・出典ウィキペディア
・ スキーズブラズニル(スキッドブラドニール)
アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、デンマークなどに伝わる「北欧神話」(スカンディナヴィア神話:キリスト教以前のノース人〈ヴァイキングを含む〉の信仰に基づく神話)に登場する「魔法の帆船」です。巨大な帆船ですが折り畳むと買い物袋に入ってしまうほどの大きさになり、帆を張ると何処からともなく風が吹き始め、船が前進し始めるのだそうです。

魔法の帆船「スキーズブラズニル」・出典ウィキペディア
・ フリングホルニ
こちらも北欧神話に登場する世界最大の帆船です。
・ ナグルファル
宗教の教えで示される「終末論」(末法思想・終末世界)は、北欧神話のなかでも「ラグナロク」と呼ばれ「終末の日」が語られている。ナグルファルと名付けられた大型の帆船は死者の爪で造られ、この船の完成がラグナロクの前兆であると信じられていて、ノルマンの人々は船の完成を遅らせるために死者を埋葬する際に爪を切っておくようになったそうです。デンマークの自治領フェロー諸島発行の切手の図柄となったことがあります。

ナグルファルが描かれたフェロー諸島の切手・出典ウィキペディア
・ 空飛ぶカヌー
カナダ、ケベック州の古い民話として語られています。
ある年の大晦日、雪深い森の奥の木こり小屋で、一人の木こりが「大晦日の夜くらい、遠く離れている恋人に会いたい。」と思い、悪魔との間で一夜だけ「空飛ぶカヌー」を使わせてもらう契約を結ぶ。契約内容は
- イエス・キリストの名を口にしてはならない。
- 空を飛んでいるときは、教会の屋根にある十字架に触れてはならない。
- 酒を飲んではならない。
でした。木こりは親友でコックの一人にこのことを打ち明け、他の8人の仲間を引き入れカヌーに乗って恋人が住むモントリオールに向かった。モントリオール市内の目的地では大晦日のパーティーが行われていてフィドル(バイオリン)の演奏に合わせてみんなで楽しそうに踊りまわっていた。帰りの時刻が近づき気が付くと、言い出しっぺの木こりが一人だけひどく酔っ払っていた。仲間たちは契約に反したことに悪魔が気づかない様に木こりを縛り上げ、猿ぐつわを噛ませてカヌーに乗り込み、何とか闇夜、空中に浮上したものの教会の尖塔に衝突しそうになったうえ、吹き溜まりに突っ込んでしまい、悪魔は契約違反に気づき皆の魂を盗みに現れた。再びフラフラと上昇したカヌーは遂に大きな松の木に激突して壊れ、木こり達は松の根本に放り出されたが、次の日の朝、他の仲間達が彼らを見つけ助け出された。言い出しっぺの木こりと親友のコックは悪魔との契約について他の仲間に語ることはなく、悪魔の恐ろしい復讐もなかったとのことです。

空飛ぶカヌー(絵画)・出典ウィキペディア
・ ノアの方舟(箱舟)
旧約聖書の「創世記」6章から9章に記載されていて、主(創造主ヤハウェ)は地上にまん延した人間の堕落を嘆き、これを洪水で滅ぼす旨をノアに告げ、方舟の建造を命じました。
方舟はゴフェルの木(イトスギ?)を使って造られ(建造した場所は不詳)、長さ300キュビト、幅50キュビト、高さ30キュビト(L=133.5㍍、W=22.25㍍、H=13.35㍍、Ⅰキュビト=0.445㍍換算:大きさをイメージするために現存の船を挙げると客船の「にっぽん丸」くらい?)の大きさで内部は三層デッキ構造となっていて多くの小部屋に分かれていた。船体の内外は瀝青(タール)で防水処理が施されていたらしい。
方舟が完成すると、ノアの妻、三人の息子とその妻、全ての動物の番(つがい)を乗せた。洪水は40日と40夜続き、地上の生き物を滅ぼし尽くし、150日後、方舟は「アララト山」(現在のトルコ共和国東端:アルメニア、イラン国境至近)の山頂付近に座洲して動かなくなった。40日後に鴉を放ったものの帰ってきた。さらに鳩を放つも同様に戻ってきた。7日後もう一度鳩を放すとオリーブの葉をくわえて舟に戻ってきた。さらに7日後、鳩を放つともう戻って来なかった。
舟を出て地上に降りたノアとその家族は、動物たちを解放するとともに祭壇を築いて主に無事を報告して感謝の祈りを捧げました。主は彼らを祝福するとともに、今後、生物を絶滅させてしまうような大洪水は起こさないことを約束し、その証として空に虹をかけた由。

大洪水が終り、主に感謝するノアとその家族(絵画)・出典ウィキペディア
世界最古の文明、メソポタミア文明の担い手シュメール人が伝承した「ギルガメシュ叙事詩」の写本のなかに「大洪水」についての記述(楔形文字で粘土板にその一部が記載されていた。:大英博物館の修復員が発見解読)があり、創世記の「ノアの方舟」の記述とは、神の名や登場人物に違いがあるもののストーリーがよく似ていて、成立年代から推定すると、ギルガメシュ叙事詩にそのルーツが認められるようです。
また、「大洪水」についての神話や伝説は世界各地(域)に残っていて、地域的洪水(津波を含む)説、地球大洪水説、海水準上昇説等で説明されていますが、妥当性を考慮すれば地域的洪水説か海水準上昇説が有力ではないかと思っています。
他方、1996年末、米ニューヨーク・タイムスにコロンビア大学の地質学者2名が「黒海洪水説」を発表しました。曰く、「先史時代(後氷期初期)のある時点で(紀元前5600年頃)、それまで淡水湖だった黒海が地中海と連結し、急速に海水で満たされることにより大洪水が起こった。」とする仮説ですが、この大洪水についての記憶がノアの方舟伝説の起源であるとする説もあり、いまだ古学者の間で議論が続いているそうです。
四方海話 27 第九話 その3 —神話・伝説の船(舟)— ‥ 外国編 ‥ 「おわり」
次回は 四方海話 28 第十話 — 日本の漁具、漁法 — です。

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