第十話 — 日本の漁具・漁法 — その1
日本近海は世界的にも希な好漁場が多く、加えて季節の変化に応じて捕れる魚の種類も多様で、その結果漁具・漁法についてもバラエティーに富み、歴史も古く完成度も高い。以下日本の主な漁具・漁法について概観します。
・・・ 漁具・漁法 ・・・
世界最古級の漁具は、沖縄県南城市のサキタリ洞遺跡で発見された2万3千年前(旧石器時代後期)の釣り針(巻貝を割って削ったもの)だと云われていましたが、東ティモール民主共和国のジェリマライ遺跡においてもほぼ同時代のものが発見されているとのことですから、サキタリ洞遺跡のものが世界最古とは言い切れなくなりました。釣り竿は使った? 釣り糸の材料は? 浮子(うき)、錘(おもり)、餌はなに? どんな魚が釣れた? 当時、既に火は使えたのだから、焼いた? 煮た? それとも刺身? 味付けは? などなど、想像すると興味が尽きません。
漁具は大きく分けて漁網、釣り具、刺突漁具(しとつぎょぐ)、陥穽漁具(かんせいぎょぐ)に分類され、対象となる魚介類の生態や漁業環境、漁場特性、季節性、採算などを考慮して、漁法とともに様々な工夫がなされています。
・ 網漁業
漁網を使って魚介類を採捕する漁法ですが、一口に網漁業と云っても大型の動力漁船を使用するものから1~2人乗りの小型漁船で漁をするもの、あるいは桁(けた)の後ろに網を付けて海底を引きずるものなど様々です。主な網漁業を列記します。網漁業は効率的である反面、混獲による漁業資源への影響も大きく、魚種によっては漁獲制限が設けられています。
1 底引き網
下のイラストの様に1隻又は2隻の小型動力漁船で漁網を引き、一定時間引き回したのち巻き上げて漁獲する。少し大型の動力漁船を使用して、網口開口板(オッタ―ボード)を取り付け、中層を引くオッタ―トロールも広く行われている。また、四方海話23で記述した「第二十八あけぼの丸」は遠洋底引き網漁船で船尾トロール式漁船です。


左は底引き網漁・右は二艘引き 出典:農林水産省漁業種類イラスト集
2 打瀬網(うたせあみ)・帆引き網(ほびきあみ)
打瀬網は船首尾方向に帆を展張して、風の力を利用して横移動しながら網を引くたいへんエコロジーな漁法で、江戸時代に大阪湾で発祥したとされています、全国に広まるも現在その殆どが小型動力漁船に代わった。北海道野付半島や熊本県八代海、茨城県霞ヶ浦に少数ながら残っているそうです。
帆引き網も大きな一枚帆に風を受けて網を引く。明治時代に霞ヶ浦で考案されて、秋田県の八郎潟でも干拓前に使用された。最盛期には霞ヶ浦で900隻を数え、「しらうお」や「わかさぎ」を主に漁獲していたもののやはり小型動力漁船に押され、現在では観光目的の漁になってしまいました。

打瀬網漁 歌川広重「六十余州名所図会」:出典ウィキペディア

帆引き網漁(霞ヶ浦):出典ウィキペディア
3 桁引き網
金属製の桁(けた)の後ろに袋網を取り付け動力漁船で海底を引き回して底着性の魚や貝を採捕します。桁は網口を広げる一方、桁の下部に爪を設けて海底の砂に潜った魚や貝を搔き出したり、網の手前に海水噴流を吹き付けて貝類を浮かせ袋網に誘い込んで漁獲するなど、対象とする魚介類の種類(ホタテ貝、ホッキ貝、赤貝、ハマグリ、エビ、ズワイガニ、ウナギ、アナゴ、シャコ、カレイ、ナマコ、マダラ、アンコウ、太刀魚など)によって様々に工夫にされていて小型機船底引き網漁の主力漁具です。また、資源保護のため桁の後ろにギャング針(引っ掛け針)を仕掛けるカラ釣り漕ぎや桁の巾を制限規則に反して故意に広くしたものは禁止漁具として取締りの対象となっています。


左:桁網(小型底引網)漁船の例(赤い漁網の上に置かれている桁) 右:桁の端に取り付けられたスキー?
4 定置網
沿岸を回遊する魚類は、経路に障害物があると沖にむかって回避する習性を利用して、海岸部に網を設置(定置)し、アジ、サバ、マグロ、ブリなどの回遊魚を採捕する。網起こし(網にかかった魚の回収)は主網のみを引き揚げて船内に魚を取り込みます。

大型定置網:イラストの上方向が海岸の方向・左端が主網 出典:農林水産省漁業種類イラスト集
5 巻き網 (巾着網:きんちゃくあみ)
探索船・網船・運搬船で構成される巻き網船団を組んで漁労する。探索船には魚群探知機を備え、群泳するイワシ、サバ、イナダ、カツオ、マグロなどを捕捉し、風向きや潮の流れなどを判断して網の投入位置を決定し網船が魚群を網で巻き込み、網の下部を絞り込んで文字通り一網打尽にする漁法です。

巻き網漁 出典:農林水産省漁業種類イラスト集
6 流し網
対象魚の回遊経路に網を展張し、一定時間固定することなく潮流任せにして流したのち回収して網に絡んだ魚を採捕します。昭和63年以前は、大手水産会社が運航する母船と独航船(どっこうせん)と呼ばれる小型漁船が北洋サケマス船団を組み、カムチャッカ半島周辺海域やベーリング海に出漁していましたが、
- 200海里漁業水域の設定
- 母川主義の主張
- 海生哺乳動物の混獲問題
- 漁業協力金の拠出
- 漁獲割当量の減少
などで撤退しました。現在では平成5年に発効した「北太平洋における遡河性魚類の系群の保存に関する条約」(日本・アメリカ・カナダ・ロシア・韓国が批准)により北緯33度以北の北太平洋公海上でのサケ、マスの漁獲が禁止されたことに伴い、「日露サケ・マス漁業交渉」の下に、日本の200海里漁業水域とロシア200海里水域でのみ、出漁期間、魚種別漁獲割当など厳しい規制の中で操業を継続(ただし、日本の200海里水域のみで、ロシア200海里水域については対応を検討中〈2023年5月中旬現在〉)しています。
7 刺し網
対象魚種の生態や漁具の設置場所によって、海底に仕掛ける底(そこ)刺し網、中層や上層に仕掛ける浮き(うき)刺し網に大別されます。前述のサケマス流し網も刺し網の一種です。
① 固定式刺し網漁業
網が移動しないよう錨などで固定して行う刺し網漁、沿岸漁業でもポピュラーな漁法。
対象魚 タイ・ヒラメ・カレイ・イセエビ・クルマエビ・ガザミ(ワタリガニ)・コウイカなど
② 流し刺し網漁業
固定せず、潮流の流れに一定時間放置して網に絡みついた魚を採捕する。
対象魚 サケ・マス・サワラ・マナガツオ・カジキなど
③ 巻き刺し網漁業
刺し網で魚群を包囲する。
対象魚 ボラ・ブリ・クロダイなど
④ 狩り刺し網漁業
刺し網を設置した場所に魚群を追い込んで漁獲する。
対象魚 ボラ・タイ・キス・コノシロ・アオリイカ・タカサゴ(グルクン)など
⑤ こぎ刺し網漁業
海底に下ろした刺し網を漁船で引き回す漁法
対象魚 アマダイ・キスなど
刺し網は網目のサイズに合わない小さな魚は捕獲しにくいが、網目に大きな魚が多数掛かると魚が暴れて網がもつれ、小さな魚も混獲されてしまう。また、イルカ、小型のクジラなどの海生哺乳類、ウミガラスなどの潜水型海鳥、ウミガメなどにとっては大きな脅威となっている。通過する全ての生物を見境なく捕獲してしまう可能性が高く、海の生態系への悪影響が懸念されるとして、1991年「第46回国連総会」で「公海上での大規模流し網操業の禁止」が決議されました。

刺し網漁 出典:農林水産省漁業種類イラスト集
8 棒受け網
下図はサンマ棒受け網の例です。夜間、強力な照明で海面を照らし、サンマ、イワシ、アジ、サバ、キビナゴ、イカナゴ、タカサゴ、スズメダイ、トビウオなどの集光性を利用して魚を集め、予め仕掛けた網の上に誘導して網を巻き上げ漁獲します。

棒受け網漁 出典:農林水産省漁業種類イラスト集
9 袋待網 (ふくろまちあみ)・込瀬網(こませあみ)
潮流が速い瀬戸内海等で古くから行われている漁法です。イメージとしては底引き網を錨を使って海底に固定して潮流の転流時から次の転流時までの約6時間施網し、潮流に乗って移動してきたイカナゴ、フグ、イワシ(稚魚)、マナガツオ、タイ、ハモなどを漁獲するものです。
昭和48年、「海上交通安全法」が制定されましたが、このなかで、指定された航路(瀬戸内海では備讃瀬戸東航路、同北航路、水島航路、明石海峡航路、来島海峡航路など)では巨大船(長さ200㍍以上)の航行の優先性、錨泊の禁止などが規定され、この海域で行われていた袋待網漁は存続が危うくなったものの、「袋待網漁船は錨泊と見なさない」「従来から行われてきた漁業活動への規制は必要最小限とする」「袋待網漁の操業は従来通り実施できるよう船舶航行時間をできるだけ調整する」として、特に袋待網漁船の操業が多い備讃瀬戸海域では「備讃瀬戸海上交通調査委員会」が設置され袋待網漁の最盛期の可航水域状況予想表を作成したり、警戒船の配備や入出航の調整等の対策を講じ袋待網漁と海上交通の安全の両立を図っています。
四方海話 28 第十話 — 日本の漁具・漁法 — その1 「おわり」
次回は 四方海話 29 第十話 — 日本の漁具・漁法 — その2 です。

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