四方海話86

ー ときの話題 ー §42

1 江戸前

2 日本のVNR報告書

 気になるニュース・トピック心配ごと

⑴ 瀬戸内の牡蠣被害

⑵ 北海道・三陸沖後発地震注意情報

⑶ この冬のオホーツク海の海氷(流氷)の状況 

⑷ 串本沖、漁船VS貨物船衝突!(from MSJC)


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1 江戸前

 元々は「江戸城の前の海」、現在の東京湾の奥部の一部(佃島周辺を中心として、品川沖から葛西沖あたりの漁場)を指していたらしいですが、そこから転じて、「江戸前」はその海域で獲れた新鮮な魚介類を意味するようになったようです。今では「江戸前寿司」や「江戸前天ぷら」など、江戸の食文化や調理法を象徴する言葉としても使われています。また、江戸時代の中頃には「江戸前」というと「鰻(ウナギ)」を指すこともあったようで、「江戸前蒲焼」は江戸っ子に大人気だったのだとか!

 江戸時代初期には、下図の紫色の区域まで海(江戸前の海)でした。江戸城日本橋(江戸時代初期には魚河岸=鮮魚市場があった)、佃島品川葛西などの位置関係に注意してください。当時の漁船は小型木造和船(伝馬船)が中心で船外機などは当然ありませんでした。小さな帆が付いていた漁船もあったらしいですが、推進力のメインは櫓(ろ)が使われていた時代ですから、船揚げ場と漁場、水揚げ場(日本橋魚河岸)までの範囲・距離は自ずと限られていたと思われます。刺し網、地曳網、四手網、一本釣り、筌(うけ)、鋤簾(じょれん)などを使って漁獲していました。

東京港の変遷(出典:国土交通省関東地方整備局HP)・not edited.

 江戸時代初期の江戸前で採れた主な魚介類

 マダイ・スズキ・アジ・サバ・ボラ・タコ・ハマグリ・アサリ・シジミ・カキ・アナゴ・ハモ・ヒラメ・カレイ・ウナギ・シャコ・ノリ(浅草海苔)などが主で、漁場は浅瀬や干潟が多く、季節回遊する魚も豊富だったようです。

 「江戸前」は単なる海域の名前だけでなく、江戸の風土や文化、味の好みまでを含めた言葉になっています。ちなみに、「佃煮」(つくだに)の発祥地「佃島」(つくだじま)は、徳川家康が摂津(大阪)の佃村の漁民を江戸に招き、隅田川河口の干潟を埋め立てて住まわせたのが始まりと云われ、移住・入植は寛永(:かんえい、1624~1644年)〜正保(:しょうほう、1644~1648年)期にかけて佃島(漁師町)が形成されていったのだそうです。

 現代では東京湾で獲れた魚介類も、「江戸前」と呼ばれています。2005年、水産庁所管の「豊かな東京湾再生検討委員会食文化分科会」は、江戸前を「東京湾全体でとれた新鮮な魚介類を指す」と「定義付け」た(ここでいう東京湾は、三浦半島の剱崎(神奈川県三浦市)と房総半島の洲崎(千葉県館山市)を結ぶ線より北側の東京湾のほぼ全域)。定義付けの理由について、「江戸前とは本来江戸城の前という意味であったが、現在ではこのあたりの海域では漁業はほとんど行われていないことから、江戸前の定義を東京湾全体に拡大した。」と説明されています。

 「現在ではこのあたりの海域では漁業はほとんど行われていない」旨指摘していますが、埋め立てにより、海そのものがなくなってしまったあとに「このあたりの海域では漁業は云々」の言及は的外れで、「江戸前」という言葉が、現代では単なる「ブランドイメージ」だけになってしまったようで寂しく思います。

 東京湾内の魚介類総漁獲量の減少とその原因

 東京湾の魚介類総漁獲量は高度経済成長期以降に大幅に減少し、1960年代の総漁獲量が約18.8万㌧であったのに対し、近年は2万㌧を下回る水準まで縮小している。 一方、1960〜1970年代の沿岸埋立により累積埋立面積は約26,000 ㌶に拡がり、干潟喪失は約8,000 ㌶に達したと報告されており、干潟や浅場の喪失富栄養化に伴う赤潮・貧酸素など生息環境悪化も漁獲量減少の主な要因の一つであり、さらに、化学物質の蓄積は食の安全性の監視対象として継続的に評価されている。(環境省資料より)

東京湾内の魚介類(江戸前の魚介類)の漁獲量と累積埋立面積の推移

(出典:水産庁資料から)・not edited.

 水質浄化と埋立制限の必要性 

 東京湾の環境改善には、水質浄化の強化と沿岸埋立の制限が不可欠です。水質悪化の主因は生活排水・工場排水による富栄養化と、干潟・浅場の埋立による自浄作用の喪失であり、両面からの対策が必要とされています。

  • 水質浄化対策
    • 富栄養化の問題:東京湾は閉鎖性水域で外海との海水交換が少なく、窒素・リンなどの栄養塩が滞留しやすい構造となっています。そのため赤潮や青潮、貧酸素水塊が頻発し、生物の大量死や漁獲量減少を招いています。
    • 水質悪化対策:昭和53年の水質汚濁防止法改正で導入された「水質総量規制」により、COD(化学的酸素要求量)、窒素、リンの削減が進められています。
    • 浄化対策の具体例
      • 下水道の高度処理化(窒素・リン除去)
      • 河川や湾奥でのエアレーション(酸素供給)
      • 海底泥の浚渫や覆砂による改善
      • 干潟・藻場の再生による自然浄化機能の回復
  • 埋立制限の必要性
    • 干潟・浅場の喪失:1960〜70年代の大規模埋立で干潟や浅場が広範囲に消失しました(前述)。干潟・浅場・藻場は魚介類の産卵場・稚魚の育成場であり、同時に存在自体が水質浄化機能を持つため、埋め立てによる喪失は漁獲量減少と水質悪化の最大の要因となっています。
    • 生態系へのサービスの低下:干潟や藻場は、窒素やリンを吸収し、底生生物が有機物を分解することで湾の自浄作用を維持していました。埋立によってこれらの機能が失われ、人工的な浄化対策に依存せざるを得なくなっています。
  • 化学物質の蓄積傾向
    • 重金属類(鉛、カドミウム、水銀など):湾奥部(特に隅田川や多摩川の河口付近)では、過去の工業活動の影響で海底泥の中に蓄積していることが多い。現在は排出規制が強化されているが堆積物中に未だに残留している場合がある。
    • 有機スズ化合物(TBT:¹トリブチルスズなど):船舶の船底塗料に使われていたTBTは、貝類の異常発育を引き起こすことで知られ、東京湾でもかつて高濃度で検出されていた。現在は使用禁止されているものの、海底泥には一部残留している。
      • ¹トリブチルスズ(TBT):有機スズ化合物の一種で、かつては船舶の船底塗料に広く使われていた。極めて強い毒性があり、「微量でも水生生物に深刻な影響を与えることに加え、食物連鎖を通じて生態系全体に影響を及ぼすことが懸念される」として、2008年に国際条約(AFS条約)が発効に伴い、TBTを含む塗料の使用は全面的に禁止された。日本では2003年に製造・使用が原則禁止され、以降は代替塗料(シリコン系や銅系など)への転換が進んでいるが、過去に使用されたTBTが海底の堆積物に残っているため、港湾の浚渫や環境モニタリングが今も続けられている。
    • PCBやダイオキシン類:難分解性で、長期間環境中に残る性質がある。湾内の一部では、海底泥や魚類の体内から微量ながら検出されることがある。

 江戸前の技と文化は、東京湾の豊かさと切り離せない。過去の忌まわしい汚染実態や夏季の貧酸素・赤潮・青潮対策といった課題はまだ残っています。下水処理の改善、モニタリングの継続、地域や住民の取り組みが少しずつではありますが実を結びつつあるとは云いながら、かつての海を完全に取り戻すことは難しいと云わざるを得ず、今後は漁業者や職人・市民・行政が一丸となって、伝統を守りながらも可能な限り水質浄化に取り組み、休むことなく海づくりを押し進めて行けば、東京湾は再び多様な命を育む場へと回復して、江戸前の味わいについても未来へ受け継がれていくことができると信じたい。 


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2 日本の²VNR報告書

 ²VNR報告書:各国がSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、どんな取り組みをしているかを国連に報告するための文書で、「自発的国家レビュー(Voluntary National Review)」のことを指します。この報告書は今年6月に公表され、7月に国連本部で開催された³ハイレベル政治フォーラム(HLPF)で発表されました。

 ³ハイレベル政治フォーラム(HLPF):国連が主催する持続可能な開発目標(SDGs)の進捗状況をレビューするための国際会議のこと。

 四方海話では、SDGsの「17の目標」のうち海(海洋)に直接関係が深い「目標13:気候変動に具体的な対策を」と「目標14:海の豊かさを守ろう」について掲載します。

 持続可能な開発目標(SDGs)に関する自発的国家レビュー(VNR)2025 〔抄〕・要約 

目標13の 概要

目標:気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる。

 VNR2025では、日本の気候政策の現状、排出削減と適応の両面での取組、国際協力の状況が整理されている。

数値目標

  • 長期目標:2050年カーボンニュートラルの実現
  • 中期目標:2030年までに温室効果ガスを2013年比で約46%削減する目標など、排出削減の具体的目標を示している

排出削減に向けた施策

 再生可能エネルギーと省エネ:再エネ導入の拡大、エネルギー効率化の推進、産業・運輸分野での脱炭素化技術の導入を加速している。 政策連携:省庁横断の施策や法制度整備を通じて、民間投資や技術革新を促進している。

適応と強靭化の取組

 防災・インフラ強化:豪雨・猛暑・海面上昇等の影響に備えた地域別の適応計画や国土強靱化への投資を進めている。

  地域支援:地方自治体やコミュニティ単位での適応策の実装と能力強化を重視している。

国際協力と技術支援

 技術移転と資金支援:アジア太平洋を中心に、気候対策技術の提供や資金支援を通じて途上国の適応・緩和を支援している。

  多国間枠組との連携:UNFCCC等の国際枠組みでの協調を通じ、グローバルな目標達成に貢献する姿勢を示している。

課題と今後の重点

 残っている課題は、目標達成に向けた実行力の強化、分野横断的な調整、社会的受容性の確保が課題として挙げられている。

 今後の方向性として、政策の実施加速、地方と民間の連携強化、国際的な協力の深化を通じて、緊急性に応じた行動を継続する方針である。

目標14 概要

目標:海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する(海の豊かさを守る)。

 VNR2025では、海洋汚染の削減、海洋生態系の保護・回復、持続可能な漁業管理、海洋酸性化への対応などが主要課題として整理されている。

主なターゲットと指標

 代表的なターゲットには、海洋ごみや富栄養化の大幅削減、沿岸・海洋生態系の保全と回復、海洋酸性化への対処、持続可能な漁業の回復とIUU(違法・無報告・無規制)漁業の根絶、海域の保護区拡大などが含まれる。これらは各種グローバル指標(例:沿岸富栄養化指数、プラスチックごみ密度、生物学的に持続可能な水産資源の割合など)で評価される。

VNR2025で示された日本の取組

  • 汚染対策:陸域由来のプラスチックごみ削減や海洋ごみ対策の強化を進めている。
  • 生態系保全:沿岸域の保護やサンゴ礁等の回復支援、海域保護区の設定を推進している。
  • 持続可能な漁業:資源管理や漁業補助金の見直し、科学的管理計画の導入を進める方針が示されている。

国際協力と技術支援

 日本は海洋保全や海洋ごみ対策で国際連携・技術支援を強化しており、途上国支援や多国間枠組みでの協調を通じて目標達成に貢献する姿勢を示している。民間・NGOとの連携や国際的な研究協力も重要視されている.

課題と今後の重点

 残る課題は、

  • 海洋プラスチックの発生抑制と回収の両立
  • 過剰漁獲の解消と漁業コミュニティの社会的受容
  • 海洋酸性化や気候変動影響への長期的対応

などです。VNR2025ではこれらに対し、政策実施の加速、科学的モニタリングの強化、地方・民間との協働拡大を今後の重点として挙げている。


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 気になるニュース・トピック心配ごと

⑴ 瀬戸内の牡蠣被害

 地球温暖化の影響で海水の温度が上昇し、養殖カキの大量死(へい死)が発生しており、瀬戸内海を中心に被害が深刻化している由。

 被害が特に大きい県は、広島県・岡山県・兵庫県で、この3県だけで日本の養殖カキ生産量の約8割(81%)を占めているとされ、今回の被害は全国のカキ供給にも大きな影響を与えているとのこと!

上記3葉は養殖カキのへい死状況の調査結果と産地別生産割合

(出典:水産庁・カキ養殖に関する情報)・not edited.

カキへい死被害への支援政策パッケージ

 政府は、「今般の高水温等によるカキへい死被害を受け、関係府省庁が一体となった政策パッケージを策定。関係府省庁と被害を受けた県や市が連携して、政策パッケージを早急に実行し、来年以降のカキ出荷の再開に向けて、万全を期す」としています。 

 主な政策

  • 短期的な経営支援
    • 実質無利子の融資や信用保証の拡充
    • 被災事業者向けの特別相談窓口の設置
    • 稚貝や養殖資材の再調達支援
  • 原因究明とモニタリング強化
    • 高水温・低酸素・病原体などの科学的調査
    • 漁場環境のモニタリング体制の強化
  • 中長期的な生産体制の転換支援
    • 耐高水温性の種苗導入支援
    • 養殖方法の見直し(密度調整・冷却設備導入など)
    • 漁場環境の改善や新技術の導入支援

 このパッケージは、単なる「復旧」ではなく、『「気候変動に対応した持続可能なカキ養殖の再構築」を目指している』としています。(水産庁資料より)


⑵ 北海道・三陸沖後発地震注意情報

 「後発地震注意情報」に関する制度は、令和4年(2022年)11月に内閣府が策定・公表した「北海道・三陸沖後発地震注意情報防災対応ガイドライン」によって正式に整備された由。このガイドラインは、日本海溝・千島海溝沿いで発生する大地震の後に、さらに大きな地震が続発する可能性があることから、注意喚起の情報発信と防災対応のあり方を示したものだということで、日本海溝・千島海溝沿いで発生する大地震に限定して発出される情報なのだそうです。

 この「後発地震注意情報」が実際に初めて発表されたのは、12月8日午後11時15分ごろ発生した青森県東方沖の地震(最大震度6強・M7.5・+津波警報)後の12月9日 午前2時で、12月16日 午前0時まで約7日間続きました。

 著者の不勉強のため、「北海道・三陸沖後発地震注意情報防災対応ガイドライン」の存在を知らず、発表に対して唐突な印象を感じたのは私だけでしょうか?


⑶ この冬のオホーツク海の海氷(流氷)の状況

上図4葉(出典:気象庁・海洋の健康診断表)・not edited.

 今年の1月中旬や4月初旬には、海氷域面積の最小値を下抜けしてしまうのでは?と心配していましたが、平年範囲を大幅に下まわっているものの、なんとか踏み留まりました。この冬も注目したいと思います。 


⑷ 串本沖、漁船VS貨物船衝突!(from MSJC)

 12月7日午後0時25分頃、和歌山県太地町梶取崎南東約6㌖付近で、貨物船「そうほう丸」(499㌧)と漁船「清丸」(4.9㌧)が衝突、漁船が転覆し、漁船の船長、乗組員の2名は重傷を負ったが付近に居た遊漁船に救助された旨の報道がありました。 

衝突事故位置図(国土地理院地図上に著者作図)

 衝突位置の詳細は報道のみでは正確に判りませんが、梶取崎南東約6㌖付近はほぼ地図上の赤丸付近と思われます。

 海難事件の内容を推測を基に云々するのは極力避けなければなりませんが、細部不詳ながら、

 「そうほう丸」は高知県須崎港向け残土の運搬途上とのことですから、三重県大王崎沖から次の変針点(潮岬沖)向け南下中のできごとで、一般的に、日本各地を繫ぎ、沿海区域(外海)を昼夜の別なく航行する内航貨物船は備付義務はないながら、AISクラスB(船舶自動識別装置)とVHF(無線装置)は備えていたと思われます。

 「清丸」はマグロ漁の操業中だったとすれば、ほぼ、漂泊中か低速で移動中だったのかもしれませんが、AISやVHFの備付はなかった?

 いずれにしても、両船共にAISVHFの備えがあれば事故を回避できた可能性は高かったものと確信しています。装置の備え付けにかかる費用も「AISクラスB」で20万円強(ディスプレイ抜きならばさらに安価)、VHF(三級海特、ボディートーキ型・出力5㍗以下)は5万円程度で済みます。事後処理に伴う諸経費や修繕費を考慮すれば決して高額とはいえないと思います。

(出展:運輸安全委員会・漁船安全操業推進会議資料〔令和5年10月〕)


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四方海話86 ーときの話題ー §42 おわり

次回は、四方海話86 ーときの話題ー§43 です。

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