― ときの話題 ー その7
・・・ 海洋熱波 ・・・
今夏の猛暑が日本近海の海水の温度を上昇させたのか、地球温暖化が日本近海の海水への影響が大きかったのか、エルニーニョと連動しているためなのか、なんとも理解不能な現象ではあります。
・・ 海洋への熱の蓄積 ・・
海洋は、大気に比べて熱容量が大きいため大量の熱を蓄積しており、大気との熱のやり取りを通して様々な時間・空間スケールで気候に大きな影響を与えます。このため、気候変動の監視、解析を行うためには、海面だけでなく海洋内部が蓄えた熱量(海洋貯熱量)の変化を詳細かつ正確に捉えることが重要です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(IPCC,2021)は、1971年から2018年の48年間で気温の上昇や氷の融解などを含む地球上のエネルギー増加量のおよそ56%が海洋の表層(ここでは海面からの深さ700mまでを指します)におよそ35%は海洋の700mよりも深いところに蓄えられたと見積もっています(下図)。1971年以降、海洋の表層で海洋貯熱量が増加していることはほぼ確実であり、人間の影響が主要な要因である可能性が極めて高いと報告されています。(中略) 世界全体の海洋貯熱量は21世紀にわたって増加し続けることがほぼ確実であり、これに伴う昇温は、海洋深層の循環が穏やかであるため、少なくとも2300年まで継続する可能性が高いと考えられています。(IPCC,2021)〔原文出典:気象庁〈海洋への熱の蓄積について〉・概略〕

地球システムにおけるエネルギー変化量(出典:気象庁)
また、下図は気象庁が毎日発表している太平洋の海面水温実況図(10月30日分)です。図中右肩の海面水温平年差とは、1991年~2020年の平均値を平年値として、赤色が濃いほど平年値より高いことを示しています。小さくて見にくいですが、日本の東北地方太平洋側に海洋熱波と呼ばれる特に濃い赤色部分があるのと、南アメリカ大陸の沿岸から赤道の沿って海水表面温度が高くなっている様子(エルニーニョ現象)がよくわかります。

海面水温実況図(出典:気象庁、国名加筆)
・・ 海洋熱波の水産物への影響 ・・
水産庁の資料によれば、北太平洋での令和4年までのおよそ100年間の平均海面水温(年平均)の上昇率は、+0.62℃/100年であり、日本近海における同じ期間の上昇率は、+1.24℃/100年である。この上昇率は、世界全体で平均した海面水温の上昇率(0.60℃/100年)や北太平洋の上昇率よりも大きい。また、数日から数年にわたり急激に海水温が上昇する現象である海洋熱波は、過去100年間で発生頻度が大幅に増加している。これら海面水温の上昇は、表層域の水産資源に影響を与えると考えられる。さらに、海洋貯熱量の増加は深海にも及び、中層域~底層域の資源にも影響している。と考えられています。

日本近海の平均海面水温の推移(出典:気象庁資料)
オホーツク海の海氷生産量が減少し、オホーツク海と北太平洋亜寒帯の中層水温(水深300~600m)が長期的に上昇している。また、親潮の南限緯度が長期的に北方にシフトしている。これらにより、本州太平洋側北部海域の底水温の長期的上昇が認められ、南部海域(福島県沖以南)で特に顕著(各深度帯で約0.1℃/100年)となっている。

親潮の春季南限位置の変動(出典:水産庁・海洋環境の変化に対応した漁業の在り方に関する検討会資料)
令和2年9月に、ロシア、カムチャッカ半島沿岸で大規模な赤潮が発生し、翌年(令和3年)9月に、北海道太平洋側沿岸においても発生し、サケやウニが大量に死ぬなどの漁業被害が発生した。この原因として、同年7月から8月に北太平洋で大規模な海洋熱波が発生しこれが終息に向かう際に、中層の栄養塩類が表層に供給され、植物プランクトンの発生海域が拡大した可能性があると指摘されています。
・ 海洋熱波の影響が著しい主な魚種 ・ (水産庁のデータ)
- 減少傾向
- サンマ・日本周辺とロシア200海里水域で漁獲していたが、近年、減少が顕著。
- スルメイカ・平成27年以降、資源量・漁獲量ともに減少傾向。
- サケ・本州太平洋側で漁獲量が激減、令和4年度は北海道日本海側やオホーツク海では増加したものの北海道太平洋側では、漁獲量の回復までには至らず、本州太平洋側でも不漁だった。日本周辺海域はサケにとって不適な海洋環境となっている。
- マダラ・日本の太平洋側で資源の減少が顕著。アラスカ湾では海洋熱波の影響で、餌環境が悪化し、資源が減少している。
- ズワイガニ・米国ベーリング海と同じく、日本の太平洋側の資源減少が著しいが、我が国の日本海側の資源量は比較的安定している。ベーリング海では資源量激減のため令和4年は全面禁漁とした。ズワイガニの幼生は夏季は表層で生活するので、表層の環境変化(海洋熱波)が幼生の生存率を低下させたとの指摘もある。
- 増加傾向
- マイワシ・分布が北方にシフトしながら資源量は増加傾向にある。
- ブリ・1990年以降漁獲量が増加、北海道や太平洋北部海域で増えている。近年は12万㌧前後で推移。要因として、①海洋環境の変化(水温の上昇が関連?)。②北部海域で越冬する群が増えた。③モジャコの採捕計画尾数の減少(餌が増えた?)など。
- 減少傾向だが親潮南限の北方シフトに伴い局所的に漁獲量の増加が見られるもの
- タチウオ・全国的に減少しているものの、東北地方で微増。
- ガザミ(ワタリガニ)・全国的に減少、宮城県などでは増加。
- フグ・全国的に減少も、北海道、東北各県では増加傾向にあり、北海道は都道府県別で全国一位の漁獲高となっている。
- 資源量は多いと見られるもの漁獲量が不安定なもの
- マサバ・資源量は多いと評価されているが、この数年は漁場の形成が不調である。その要因として、①親潮の分流の三陸沖合への張り出しが弱く、サバの南下回遊経路が沖合に離れた。②黒潮が岸寄りに北上することでサバが岸寄りに南下できず、房総、常磐沖などで漁獲され難い。③暖水の影響で秋の海水温低下が阻害され、サバの回遊時期の遅れや漁期の短期化が発生している。
・ 海洋熱波の沿岸養殖業への影響 ・
海洋熱波は、我が国沿岸の養殖漁業にも大きな影響を与えているようです。
- カキ養殖:カキは炭酸カルシウムの殻をつくり成長するので、むしろ海洋酸性化が今後影響する可能性がある。また、殻が脆弱な幼生の時期に大きな環境変化があると大量死に至る可能性があることに加えて、一般的に水温の高い夏が産卵期で、秋冬に栄養を吸収するが、水温が高いまま推移すると身が大きくならない。
- ノリ養殖:温暖化により秋の海水温低下が遅れ、養殖可能な期間が短くなるという影響があるほか、高い水温により葉に障害(形態異常)が見受けられる。また、海水温の上昇によりクロダイなどの活動範囲が拡大して、食害が発生している地域もある。さらに瀬戸内海ではノリの成長に必要とされる、窒素・リン等の栄養塩類の濃度が減少し「色落ち」などの現象も見られる。
- ホタテ貝・ワカメの養殖:海洋熱波は主に北海道・東北地方の内湾で行われているホタテやワカメの養殖業に影響を与える可能性を指摘されています。
- ホタテ養殖:将来、養殖可能な海域が制限される可能性があり、より低い海水温度が確保できる沖合の水深が深い地点への養殖施設の移動等について検討されている。
- ワカメ養殖:ワカメを高い海水温度から守るため、沖に出す時期が遅くなることにより、養殖期間が短くなり、結果、収量が減少するとして、陸上養殖場で作る種苗を大きくするなど短くなる海上での養殖期間に対し、いかにして収量を維持するかが検討されている。
・・ 世界中の海で海洋熱波が発生 ・・
2010年~2011年、西オーストラリア沖で大規模な海洋熱波が発生、表面海水温度が6℃も上昇し、ケルプ(コンブに似た大型の海藻)の大群落の壊滅、アワビ、ホタテの絶滅、多数のペンギンの死など大きな被害があった。それ以来、世界各地で発生が確認され、2010年代の発生回数は172回、平均的な持続期間は48日、ピーク時の温度上昇幅は平均5.5℃だったとのことです。
北大西洋では、英国とアイルランドの沖合で海洋熱波が観測されており、北海では海水温が通常より5℃も高くなっていて極度の海洋熱波が発生中です。

2023年9月の世界の海面水温平年差(出典:気象庁データ)
・・ 海洋熱波の極地への影響 ・・
下のグラフは気象庁が公表している北極・南極の海氷量の変化を表しています。破線は、1991年から2020年まで30年間の平年値、青線は北極域、オレンジは南極域、緑色は全球(地球全体)を示しています。上のグラフは10年前(2013年)のグラフ、下が今年(2023年)のものですが、両極ともに10年前とは明らかに海氷面積が減少しているのが判ります。

10年前(2013年)の両極地の海氷面積推移(出典:気象庁)

今年(2023年)の両極地の海氷面積推移(出典:気象庁)
・ 北極への影響
カナダ、アメリカ、ロシアから北極圏まで熱波が拡大し、海氷面積は減少し続ている。このままでは2030年の夏には海氷域が消滅してしまうとの指摘もあります。ますますシロクマ(絶滅危惧種)の生活圏が狭まくなり絶滅してしまうかも知れません。
・ 南極への影響
南極域では、今年(2023年)2月に海氷面積が観測史上最小値を更新して、その後も海氷域が平年に比べ下回って推移している。
・・ 地球全体が未知の領域へ ・・
今年、気候に関する4つの記録が更新されたそうです。
- 世界の平均気温:7月の初旬、世界の平均気温は史上初めて17℃を超え17.08℃を記録した。
- 世界の6月の平均気温:産業革命以前(1850年~1900年)の6月の平均気温より1.47℃高かった。
- 極度の海洋熱波:世界の平均海水温度は、5月、6月、7月にそれぞれ月間の平均最高記録を更新しました。
- 南極の海氷面積:7月には南極海の海氷面積が記録的に小さくなり、その傾向が継続しています。
これらの数値が単にデータとして残るだけで済むのか、あるいは地球の生態系を破壊に導く前兆なのかは判りませんが、関心をもって見つめながらCO2の削減に協力しつつ、ゴミの分別と海岸清掃に積極参加するしか術がありません。
四方海話 48 ー ときの話題 ー その7 「おわり」
次回は 四方海話 49 ー ときの話題 ー その8 です。

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