四方海話 11

第四話  ― 浦島太郎伝説 ―

 「昔々浦島は、助けた亀に連れられて、龍宮城に来て見れば、絵にも描けない美しさ。乙姫様のご馳走に、鯛や鮃の舞い踊り、ただ珍しく面白く、月日の経つのも夢の中。~~♪」                                          このおとぎ話は、「桃太郎伝説」や「かぐや姫」と同様、日本国民ならばほぼ全ての人が知っている昔ばなしですが、伝承されている地域によって内容に若干の違いがあり、また、基となる古文書によっても変化(バリエーション)があって興味深い。

 浦島太郎」は「日本書紀」「万葉集」「丹後国風土記逸文」などに「浦島子伝説」を基とした記述が残されていると云うから歴史は古い。近代では低学年児童に、「約束を違えるとわが身に悪いことが起こる。」旨の倫理観を教えるため明治時代から昭和にかけて国定教科書に掲載されていたそうです。

亀を助ける浦島太郎・国定教科書

 この伝説は「京都府の丹後半島」「神奈川県横浜市神奈川区」「長野県木曾郡」「香川県三豊市」「沖縄県島尻郡南風原町」「愛知県知多半島」「鹿児島県指宿市」などに伝承が残り、学者や作家、郷土史家等が古書の記述や伝承を比較検討して様々な解釈を加えている。ここに、神奈川県横浜市神奈川区に伝わる物語と、江戸時代武蔵国神奈川宿にあった観福寺(浦島院観福壽寺:江戸末期の神奈川宿の火災で焼失、廃寺)の縁起書に残されているという記述を基につじつま合わせを試みることとしたい。

 雄略天皇(第21代:在位457年~479年)の時代、相州三浦の住人「水江浦島太夫」は朝廷から大裡(たいり)という役職?(詳細不明)に任ぜられると共に丹後国への赴任を命じられ、一家で丹後国(丹後半島伊根付近?)に移住した。太夫には太郎重長(たろうしげなが)という息子がいたが、ある日のこと太郎が小舟を出して海で釣りをしていると、五色に輝く大きな亀を釣り上げた。万年生きるとされる亀を捕まえるのを不憫に思った太郎は海に戻してやり、舟上で昼寝をしていると亀が美しい女性(乙姫様)に変身して舟に戻って来た。命を助けてくれたお礼にと、太郎は乙姫様に連れられて「龍宮城」に行き歓待を受ける。                                      

 三年の後、ふるさとに残してきた父母のことが心配になり、暇乞いの後、乙姫様から「玉手箱」と「観音像」を授けられ丹後国に戻ると、村の様子は全く変わっていて父母も知り合いの人も見当たらない。困った太郎が乙姫様から授かった観音像に祈ると、夢の中に立ち現われ「故郷の三浦へ我を背負って下れ。」とのお告げがあった。太郎は観音像を背負い、玉手箱を抱いて相州に向かった。三浦に戻った太郎は、父の太夫から九代目の子孫にめぐり逢い、父母は300年前に武蔵の国の「白幡の峰」に葬られていると聞いて、300年ものあいだ龍宮城に居たことを知ることとなる。

 父母の菩提を弔うため、墓があるという白幡の峰に向かうものの墓所が分らず途方に暮れていたところ、峰の頂上に立つ一本の松の枝に不思議な明かりが灯り、その下に両親の墓を見付けることが出来た。この明かりは乙姫様が太郎に父母の墓所を知らせるために灯したものであった。(龍燈の松:関東大震災で倒れ、枯死して現存しない。)太郎は墓の傍らに観音堂を建て、観音様と玉手箱を奉納すると近くの浜辺(子安浜?)から何処ことなく消え去った。天長2年(825年・平安時代初期)のことです。

 5年後の天長7年(830年)7月7日(旧暦の七夕)、太郎と乙姫様が亀に乗って子安浜に現れ、「我ら、民衆の願いを受けて、観音様を守護し奉る。」と言い残して再び海の彼方に消え去った。浜の人々は観音堂近くに立派な寺院(観福壽寺)を建てて、太郎を「浦島大明神」、乙姫様を「亀化龍女神」として立像を造り、観音像とともに同寺に安置し信仰した。観福壽寺は慶応三年(1867年:大政奉還の年)に大火で焼失したが、焼け残った観音像や立像はJR東神奈川駅近くにある「慶運寺」(現在の浦島寺)の観音堂に安置されている。

     慶運寺観音堂内部 左から乙姫様(亀化龍女神)、観音像、浦島太郎(浦島大明神)         

 慶運寺観音堂は本来十二年に一度(子年)の御開帳とのことですが、お寺の計らいで正面扉に小窓が開けられていて内部を覗き見ることができる。また、観音像の足元の動物は亀ではなく贔屓(ひいき:贔屓の引き倒しのひいき:重いものを背負うことが好きな架空の生き物)なのだそうです。

 また、焼けてしまった元の観福壽寺跡地の大部分は神奈川県の計量検定所が占めていて、一段高いところに狭いながら浦島公園が設けられ、「白幡の峰」は頂上が削られて県営の集合住宅が建っている。

 観福壽寺跡地の現状(国道1号線・浦島丘歩道橋の上から撮影)

第四話「おわり」次回は四方海話12、第五話 ―海の怪物(魔物・妖精)―です。

  

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