四方海話 45

―  ときの話題  ー   その4

・・・ 旅客船KAZUⅠ沈没事故・事故調査報告書を読んで ・・・

先月(2023年9月)7日、旅客船 KAZUⅠ沈没事故の「船舶事故調査報告書」「同説明資料」が公表されました。小さなお子さんや新婚さんも犠牲となり、何とも痛ましくやり切れない事故でしたが、約1年半が過ぎ、ようやく原因究明のための調査が終りました。同報告書の本文は186㌻もありますが、海事関係の職に携わる方々は、ぜひ、ご一読をお勧めします。

 ・・ 調査報告書の要旨 ・・

 <概要> (原文のまま) 

 旅客船KAZUⅠは、船長及び甲板員1人が乗り組み、旅客24人を乗せ知床半島西側海域を航行中、浸水し、令和4年4月23日13時26分以降短時間のうちに、同半島西側カシュニの滝沖において、沈没した。

 この事故により、旅客18人、船長及び甲板員が死亡し、旅客6人が行方不明となっている。

KAZU1の一般配置図(出典:運輸安全委員会、事故調査報告書 説明資料)

 <原因> (要約・下線部加筆) 

  1.  KAZUⅠが知床岬を折り返しウトロ漁港へ帰港中寒冷前線のオホーツク海通過に伴う北西寄りの風が吹き、風浪が次第に高まる中、波が船首甲板に打ち込む状態(船首が波に突っ込み、海水を船首甲板がすくい上げる状態)となり、船首甲板下にある船首区画のハッチ蓋が開いたため、同ハッチから上甲板下の船首区画に海水が流入、水密隔壁に設けられた穴(マンホール?)を通じて同区画から倉庫区画、機関室、舵機室へと拡大し、主機関が停止して船体のコントロールができない状態となったうえ浮力を喪失して沈没に至った。船首倉庫のハッチ蓋が開いたのは、同ハッチ蓋が確実に閉鎖されない状態のまま(予め荒天が予想される場合などはハッチの上から防水キャンバスを被せるなどの処置もできたはずであり、荒天準備もしていないまま)ウトロ漁港を出港し、その後も運航を中止し帰港を決断するかあるいは引き返して緊急避難港(文吉漁港)に避難する等の措置がとられることもなく航行を継続したことによるものと考えられる。
  2.  船首甲板下にある船首倉庫のハッチ蓋が確実に閉鎖できない状態であったとは、長年の使用(KAZUⅠの船齢は約38年)経年変化による部材の摩耗、緩みなどに対し、十分な保守・点検がされていなかったことによるものと考えられる。加えて、日本小型船舶検査機構(JCI)が行った事故直前の検査においては、検査員が開閉検査を省略し、外観検査のみで良好と判断したことにも原因があるものと思われる。(また、ハッチ蓋のヒンジが折れて脱落している写真を目にしました<説明資料>が、波の力で急激に開いたハッチ蓋が客室前方の中央窓ガラスに当たり、ガラスが割れたことにより、客室に大量の海水が流れ込んだのも一因となったものと容易に推察される。構造上、ハッチ蓋の開放方向にガラス窓を設けるのは非常に危険である。なお、脱落したハッチ蓋は行方不明となっている由)
  3.  KAZUⅠが、出航後、運航中止の措置をとらずに運航を継続したのは、船長が知床半島西側における気象・海象の特性やKAZUⅠの堪航性能について必要な知識・経験を有していなかったことと、会社事務所には、運航管理をおこない船の運航等を支援する者が居なかったこと、さらに有効な通信連絡手段がなかったため天候の変化(前線の通過)や推移等の情報も得ることができず、また、JCIの検査では、航行区域内に電波の不感地帯があるKDDIの携帯電話を通信手段として認めた(JCI検査員はKDDIのネットワークの不感地帯の存在を知らなかったのか、JCIの検査マニュアルではOKだったのかは不明)ことも大きな間違いであると思料する。
  4.  有限会社知床遊覧船は、船舶の安全運航に関する知見を持たない者が安全統括管理者の立場にあり、運航基準は守られず、船体や通信設備等の保守整備も不十分であった。国交省北海道運輸局が、令和3年に現社長を安全統括管理者兼運行管理者に選任した旨の届け出がなされた際の審査や同社に対し実施した監査でも、安全管理体制の不備を見抜くことができず、改善を図ることができないまま社船の運航を継続させていたことにも原因があるものと思われる

KAZUⅠの航跡(出典:運輸安全委員会、事故調査報告書 説明資料)

・・ 利用者の安全のために ・・

1 資格(免許)制度について

 小型旅客船の船長資格は小型船舶操縦士免許と特定操縦免許となっていますが、さらに厳格なものとし、旅客船の運用海域の気象・海象・地形の特殊性や当該海域での運用経験年数を加味したものとすること。また、小型旅客船の乗組員に対しては船員手帳の所持を義務化し、乗務経験を明確にする必要があります。

 運用管理責任者(補助者も含む)について、実務経験を重視した資格試験制度を設け、社長との兼任を禁止すること。補助者については元地元の漁業者など、地形を熟知し、地域固有の観天望気ができる者を充てる。 

2 船体・機関の構造

 地域(海域)の特性に応じた構造規定を設けること。出発港を出るとすぐに外洋となる地域の船と瀬戸内海などで運用する船とでは仕様が異なるはずです。  

 小型旅客船の主機関・軸系は2機2軸とするか、予備推進器(船外機?)の搭載を義務付ける。

 甲板上の水密ハッチの取り付け方向にも規定を設ける。ハッチは基本的に前開きとし、開方向至近にガラス窓がある構造は不可とする。

 防水隔壁は小型旅客船でも設置を義務付ける。船体容積の半分が浸水しても沈まない船体構造とすることが必要です。

3 検査(JCI)

 検査員の資質向上。検査時に構造・設備・艤装についてマニュアルだけに頼ることなく、適切なアドバイスができる高度な知見を有した者を充てる。

 船齢の古い船については、特に詳細な検査をするか、検査の間隔を短くするなどの措置が必要です。FRP(強化プラスチック)製の船体は錆も出ないし腐ることもない。しかし、ハッチや手すりなど金属製の部分は腐食すれば強度も落ちる。定期的な点検と交換が必須なのは言うまでもありません。

4 許認可

 事業所の安全統括管理者(補助者)については、資格制度とともに厳格な経歴の証明が必要です。

5 運輸安全委員会の権限強化 

  • 事業認可の取り消し、業務停止命令を含む懲戒権を付与する。
  • 海事局、日本小型船舶検査機構(JCI)、日本船舶職員養成協会(JEIS)等への監督権を付与する。

6 海のインフラ整備

  • 船舶自動識別装置(AIS・クラスB)の搭載義務化とネットワークの整備
  • VHF無線装置の搭載義務化と陸上中継局の設置などのネットワークの整備

 ・ 教訓 ・

1 小型船舶操縦士免許について

 『小型船舶操縦士免許を取りました』は『海について全て知っている』ではありません。

」の理解への入り口に立ったに過ぎず、。そこから修行(学習)と研鑽が始まるのです。

「思い上がりは絶対禁物、謙虚な態度で海と向き合うことがなにより大切です」 

「海はそんなに甘くはない!」

2 安全と利益

 「安全の確保が最優先!利益はその次!」

 「安全第一」「標語」に過ぎない。「実践」がなければただの「おまじない」である。

 「利益優先は安全を阻害する」

3 安全は無料(ただ)ではない!

 安全確保には常日ごろから気を配り、思いついたことはコツコツと改善を心掛け、安全性の向上に関することであれば多少費用がかかっても実行することが肝要です。

4 小型船舶運航者の安全意識向上へ

 小型旅客船や遊漁船の操縦者に限らず一般のレジャーボートに同乗者を乗せる場合でも、『乗船者の「命」を預かるのである』という強い意識をもって運航していただきたい。当たり前ですが船は自動車とは異なります。海上では気象・海象の影響が大きく、危険因子も格段に多い。天候の変化予測などは至極当然ですし、出航前の点検も大切です。『海難事故は絶対起こさない』との強い意志を持って自己研鑽と安全運航に励んでいただきたいと思います。

 ・・ 事故調査報告書の結語 ・・ (原文のまま)

 本事故は、一般的な低気圧に伴う寒冷前線の通過時に発生したものであるが、近年の地球温暖化の進行による気象環境の変化など、小型旅客船事業者をはじめ他の旅客運送事業者の運航環境は、今後も変化していくと考えられる。このような環境変化にも適切に対応し安全な運航を継続していくためには、全ての事業者が自ら培った安全文化を基礎として、安全確保の取組を自律的、継続的に進めていくことが求められている。

四方海話 45  ー ときの話題 ー  その4   「おわり」

次回は  四方海話 46   ー ときの話題 ー  その5   です。 

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