第七話 — 船 乗 り — §2
・・・ 海の天気のことなど ・・・
・ 海象(かいしょう)
「セイウチ」のことではありません。セイウチは同じ漢字表記でも「かいぞう」と読みます。「海象」(かいしょう)とは海(海洋)で発生する自然現象の総称を云い、天候に加えて波浪(風浪・うねり)の高さ、波の方向、潮汐、潮の流れ(方向・強さ)などを含みます。
「昔の船乗り」の項で紹介した木造帆船時代の「船頭」や「梶取」の重要な仕事のひとつが「観天望気」により「日和」(ひより=海象の変化の)を正確に見る(読む)ことでした。これは当時、船と積み荷と乗組員の命がかかったことですから船頭等の腕の見せどころです。無理やり出帆して遭難したとなれば最悪の事態、日和に恵まれなければ何日も風待ちすることは常だったようです。全国の津々浦々には極めてローカルな、こんにちの気象予報士がいて、船頭等にアドバイスして礼銭を稼いでいた例も多かったようです。
因みに「セイウチ」は日本近海には棲息しません(カナダ、アラスカ、グリーンランドなどの北極海周辺で生活している)。よく似た海獣「トド」(海馬:「タツノオトシゴ」を指す場合もある。また、人間の脳内にも海馬と云われる部位がある。)は「アシカ」、「アザラシ」や「オットセイ」と同類で、北日本の沿岸部に生息していますが漁網にかかった魚を食べてしまったり、絡まって破ってしまうので漁業者からは厄介者扱いされています。


「トド」と「セイウチ」の画像:左がトド・右がセイウチ ・出典ウィキペディア
・ 日和山(ひよりやま)
全国の津、浦、湊には「日和山」と名付けられた、海への見晴らしが良い小高い山(丘)があり、山頂には「方角石」(ほうがくいし=方位石<ほうい石>:その場所での東西南北を十二支で表記、北が子<ね>、東は卯<う>、南は午<うま>、西は酉<とり>:東京都江東区に辰巳<たつみ>と云う地名がありますが、江戸城<皇居>から見て南東の方角にある町なので辰巳とした。)が置かれ、船頭等がそれを見ながら経験と勘、諺(ことわざ)と土地の言伝えを頼りに次の寄港地までの海象を予測した。「日和」という言葉は「小春日和」などほんのり系の言葉にも使われますが、反面「日和見主義(者)」「日和見感染」などマイナスイメージにもなる言葉ではあります。
・ 観天望気(かんてんぼうき)
「夕焼けは明日晴れ」「東風(こち)吹けば雨」「日傘月傘出ると雨」「海鳴りが聞こえれば暴風雨」「鯖雲(さばぐも)は雨」「星が瞬くと雨」「朝霧は晴れ」などが一般的ですが、全国津々浦々には固有の伝承があるようで、季節、天気、風向、風速、気温変化、潮流(沿岸・沖合)、潮汐、視程、波高(風浪・うねり)、鳥や虫の様子、動物(猫?)の仕草、景色の変化や潮風の匂いまでかぎ分けて総合的に予想を立てていたようです。局地的な予想は気象予報士よりも正確だったかも知れません。
・ 海流
「海流」(かいりゅう)の定義を調べてみましたが、
- 地球規模で起きる海水の水平方向の流れの総称。(フリー百科事典・ウィキペディア)
- 海水の運動のうち、比較的変動が少なく、ほぼ一定の方向に流れているものをいう。(ブリタニカ国際大百科事典)
- 海洋中で一定の方向に帯状に流れる海水の流れ。暖流と寒流がある。(デジタル大辞典)
- ほぼ一定の流路と方向をもつ海水の流れ。深層にも緩やかな流れが存在する(深層大循環)が、表層の流れに限定することが多い。大洋上では幾つかの海流が環状に連なって、風系と相似の形をもつ循環を構成(大洋大循環)している。(百科事典・マイペディア)
- 海洋中をほぼ一定方向かつ恒常的に流れる海水の運動。(世界大百科事典)
とさまざまで、なんとなく理解できますが決定的な定義が見当たりません。きっと海流自体が漠として捉えどころがない自然現象なのだと思います。
帆船時代に大きな影響があった日本列島周辺の海流と北太平洋の海流について考えてみると、本州南岸で時化に遭い遭難したとすると、まず「黒潮」に押し流され、運が良ければ伊豆諸島のいずれかの島に漂着するか、不運にも島に上陸できなければさらに北太平洋に押し出され北太平洋海流に乗って漂流し、米国の捕鯨船その他の貿易船に発見されるのは幸運で、アメリカ大陸西海岸にまで到達し原住民に捕まってしまったり、最悪の場合には水、食料も尽き果てて発見されることもなく海の藻屑となって消滅した船も少なくなかったようです。


日本近海の海流(左)と北太平洋の海流(右)・出典:海上保安庁海洋情報部
・・・ 日本列島付近の主な海流 ・・・
- 黒潮 別名「日本海流」とも呼ばれ、東シナ海を北上しトカラ海峡から太平洋に出て、四国、紀伊半島沖を東流、房総半島沖に達する。
- 親潮 千島列島に沿って南下し三陸海岸沖にまで達する。栄養塩を多く含み、魚の餌となる動物プランクトンの発生を促し好漁場を形成する。
- 対馬海流 九州の西方沖から対馬海峡を通って、能登半島沖、佐渡ヶ島沖を北上し、一部が津軽海峡に入り太平洋側に抜ける。
- 津軽海流 対馬海流の一部が津軽海峡の西口から入り、東口から太平洋に出る。
- 宗谷海流 対馬海流の一部が北海道西岸を北上し宗谷海峡を通過した後、オホーツク海を北海道北岸に沿って南下する。
- リマン海流 「間宮海峡」北部に河口がある「アムール川」から流入する大量の淡水に押され、大陸に沿って南下する。流量が少なく観測データが乏しいらしいですが、流域はサケ、マス、ニシン、タラなど寒海性魚類の好漁場となっているそうです。
四方海話 21 第七話 — 船 乗 り — §2 「おわり」
次回は 四方海話 22 第八話 — 我が国周辺の海難事故 — です。

コメント