四方海話 43

ー ときの話題 ー  その2  

・・ 東京湾が危ない ! ・・

 ・ 日鉄君津シアン化合物排出 ・

  東京湾のほぼ中央部、千葉県君津市所在の東日本製鉄所君津地区の排水口(複数)からシアン化合物(チオシアン酸アンモニウム=青酸化合物)を含む排水を小糸川や木更津港内に排出していた事件は、「未来に残そう青い海」のスローガンの下、水質向上にむけて努力してきた東京湾岸の各自治体や漁業者団体、市民に対する重大な背信行為です。

・発端は、昨年(2022年)6月、製鉄所付近の水路の水が赤く染まり、魚が大量死しているのが目撃され、有害物質が流れたことが原因と特定されて発覚しました。

・同年7月、製鉄所の高炉で発生する石炭ガスの脱硫装置から出る処理水(シアン化合物を含む)を、無届けの排水ポンプを使って、本来の排水系統とは別のルートを通じて木更津港内(公共用水域)に排出した。

・同年8月、過去3年の間に40回以上シアンの異常排出を検知していたにもかかわらず、千葉県、木更津市、君津市、富津市の各関係自治体への報告を怠っていたことが判明しました。

・同年8月末、熊谷千葉県知事と関係自治体の長が製鉄所々長に面会、「県民の不安を招き、事業者への信頼が損なわれる事態が続いており、たいへん遺憾だ。企業として果たすべき社会的責任を十分に認識してほしい」旨申し入れました。

・同年9月末、日本製鉄(株)から千葉県、木更津市、君津市、富津市の各自治体へ「事案関する報告書」が提出されました。

 報告書に盛り込まれた事項は

  • ”漏らさない” ”漏れても排水系統に流さない” ”排水系統で遮断する” の三重の対策で再発を防止する。
  • 水質検査を担当する部署を再編するなど、組織体制を見直し、業務フローを変更する。
  • 水質規制などの一覧を明示し、社内の教育を徹底する。

とし、これまでに発生したシアンの流出事故については、既に原因を特定し、補修などの対策済みである旨回答しました。

・2023年1月、千葉海上保安部が「水質汚濁防止法」違反の容疑で、日本製鉄(株)東日本製鉄所君津地区に対し強制捜査(捜索差押許可状の執行)に着手しました。

・2023年1~7月、千葉県が招集した「有識者会議」(全6回開催)で日本製鉄(株)から提出された報告書の内容を評価し、千葉県がまとめる評価書の作成に向け意見を出しました。曰く「シアンをはじめとした有害物質を事業場の外にできる限り出さないという考えが希薄となり、コンプライアンス教育が形骸化してしまった結果、環境マネジメントシステムの機能不全を起こしてしまった」とし、その上で次の3点について問題点を指摘しました。

有害物質に関するずさんなリスク管理など、不十分な環境保全対策・・・事実を正確に把握せず、推論のみに基づく漫然とした対応により重大事故が起こった。ずさんなリスク管理など、不十分な環境保全対策によって各事案が発生していた。

コンプライアンス意識の欠如、法律などの認識不足・・・日本製鉄は、これまでも環境に関する教育を実施していたとのことだが、結果としてコンプライアンス教育が社員一人ひとりに浸透しておらず、長期にわたるコンプライアンス意識の欠如や、法律の認識不足によって、各事案が発生していた。

組織内部の連携不足と環境マネジメントシステムの機能不全・・・他部門などとのリスクの共有の不備などにより、明らかに不適切な事実に対し、対策を講じることができなかった。水質関連業務に関する組織内部の連携不足によって、各事案が発生していたことが確認された。

 一方、有識者会議からの「原因の核心を突く質問」に対し、会社側は千葉海保が捜査中であることを理由に内容を明らかにせず、県はそのような姿勢を「極めて遺憾」として改めて回答を求めているそうです。

日本製鉄 東日本製鉄所君津地区の所在地(元写真の出典:ウィキペディア)

シアン化合物について 

 シアン化カリウム(=青酸カリ)は毒物として有名ですが、工業的には冶金(やきん:鉱物から有用金属を製錬し、取り出す技術)や鍍金(ときん:メッキ)に広く利用されています。今回、日鉄君津が排出した「チオシアン酸アンモニウム」は、石炭を燃やす際に発生する硫黄分を取り除く脱硫液として製鉄所等で一般的に使用されているものです。

水質汚濁防止法について

 この法律は、公共用水域(海域も含まれる)の水質汚濁を防止するため1971年(昭和46年)6月に施行され、工場や事業場から排出される水質汚濁物質について、物質の種類ごとに排出基準が定められていて、「特定施設」を設置している各工場や事業場では排出基準を厳守することを義務付けられています。

過去の東京湾岸での水質汚濁防止法違反事件

 同様な事件は、2005年(平成17年)JFEスチール東日本製鉄所千葉地区(千葉市中央区)の排水口から基準以上の強アルカリ水、シアン化合物、六価クロム化合物が排出されていた他、水質管理データの改ざんも行われていたとして千葉海上保安部に立件されている。

 ・ PFAS問題 ・ 

 有機フッ素化合物(PFAS)汚染について、今年(2023年)4月にNHKの番組「クローズアップ現代」で取り上げられたので覚えている方も多いと思いますが、憂慮すべきはその拡散状況です。

 東京湾内

横田基地(東京都西多摩)周辺(基地の東南東各地)の地下水(井戸水)では高濃度のPFASが検出されたため浄水場での取水を停止した。取水停止した浄水場は34か所(2023年1月現在)を数える。地下水はやがて湧き水として地上に現れ、河川(多摩川)となって海域(東京湾)に注ぐ。

横須賀米海軍基地では排水処理施設から高濃度(基準値の258倍)のPFASが排出された(2022年)。また、海底の土砂からはやはり高濃度のPFASが検出されています。(2020年度 化学物質環境実態調査:環境省)

 東京湾岸以外では

厚木基地の敷地内を流れる蓼川から基準を超えるPFASを検出(2022年9月)した。蓼川は引地川を経由して鵠沼海岸で相模湾に注いでいる。

・伊勢湾も!愛知県の豊山町は町の大半を名古屋空港・自衛隊小牧基地の敷地が占め、町内に大山川が通っていますが、町内の浄水場で取水している地下水のPFAS濃度が目標値を超え、取水を取り止めたほか、飲料水として使用していた町民のPFAS血中濃度が高く健康不安が高まっている。大山川は新川となって伊勢湾に注いでいる。

大阪湾でも! 琵琶湖から大阪市を流れ下り大阪湾に注ぐ淀川でも、流域に工場を持つ有機フッ素化合物製造メーカーが流したとされるPFASで土壌や河川の汚染が進み、現在では大阪湾のPFAS汚染は東京湾よりさらに深刻なのかも知れない!

沖縄では!2016年、地元新聞の報道を契機として米軍基地内から流れ出る川がPFOSで高濃度に汚染されていることが判明しています。基地内では、航空機火災の消火訓練が頻繁に行われていて、使用される泡消火剤に含まれるPFOSが長期にわたり土壌や地下水に蓄積し、湧き水となって河川を経て海に至る。

  PFASとは

・フッ素化合物には、4,730種以上があり(アメリカ環境保護庁データベースでは約14,735種)、その総称で、「永遠の化学物質」と呼ばれています。

・元々自然界には存在せず、100%化学合成物質で、フッ素樹脂の製造や耐脂紙のコーティング剤、消火器の泡消火剤、界面活性剤、金属メッキ処理剤、殺虫剤、調理器具のコーティング剤等にも使用されています。化学的に極めて安定していて、環境中に放出された後も分解されず、PFOA、PFOS、PFHxS、PFNA等として残留する。特に泡消火剤は米軍、消防機関、空港、自衛隊関連施設、石油コンビナートなどに保管されていて、2020年(令和2年)に環境省が調査した結果、PFOS含有の泡消火剤は全国で338.8万リットルあり、順次、代替え品との入れ替えがなされているとのことです。

アメリカ環境保護庁によれば 

 特定のPFASは以下の健康への影響を引き起こす可能性を指摘しています。

  • 前立腺がん・精巣がんなど一部のがんのリスク上昇
  • 妊娠高血圧症など生殖への影響
  • コレステロール値の上昇、肥満のリスク
  • 低出生体重・骨の変異など子供の発達への影響
  • ワクチン反応など免疫力の低下

を掲げ、また、数千もあるPFASのなかで有害性が指摘、研究されているのは一部でしかないことや、今後、様々な形でPFASに曝される可能性もあることから、健康への影響を正確に追跡することはが難しい物質であるとも指摘しています。

・漁獲された魚介類にも比較的高濃度でPFASの残留が認められるものがある。

・PFASのうち「ポリテトラフルオロエチレン」は、通称「テフロン」は金属製調理器具の表面のコーティング塗料として利用されていますが、過度の強火や長時間の調理によって劣化あるいは剥離が起こることもある。耐熱性、耐薬品性、耐腐食性に優れ、電気機器や化学機械的用途、工業的機械要素にも幅広く利用され、現代の先端技術を支える重要な物質でもあります。

 各国の水道水等の基準値(nℊ:ナノグラム:1nℊ=1gの10臆分の1)

アメリカ  飲料水 PFOS:0.02nℊ/L  PFOA:0.004nℊ/L

      環境中 PFOS:40nℊ/L   PFOA:60nℊ/L

ドイツ   飲料水 PFOS:300nℊ/L  PFOA:300nℊ/L 

      環境中 PFOS:100nℊ/L  PFOA:100nℊ/L 

EU    飲料水 PFAS合算値:100nℊ/L

      環境中 規定なし

日本(暫定目標値)   PFOSとPFOAを合わせて50nℊ/L   

WHOでは、昨年(2022年9月)水道水に含まれるPFASの暫定的ガイドライン値の草案を発表し、PFOS、PFOAそれぞれ100nℊ/L、PFASの合計値500nℊ/Lとしましたが、PFASの健康への影響を研究中の多くのの科学者から大幅な修正、撤回を求められているそうです。 

POPs条約

 環境中での残留性や蓄積性、人・生物への毒性が高く、長距離の移動性が懸念されるPFAS、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDT等のPOPs(残留性有機汚染物質)の製造・使用の廃絶、制限、排出削減、廃棄物の適正処理等を規定している条約で、日本は2002年(平成14年)に批准し、2004年(平成16年5月)に発効しています。

 20年前に発効した条約・・つまり批准についての議論をしたときにはすでにPFASの存在と危険性の認識があったのに、環境省が第1回「PFASに対する総合戦略検討専門家会議」が開催されたのが今年1月、「PFASに関する今後の対応の方向性(概要)」(下表)の公表は7月です。

PFASに関する今後の対応の方向性(概要) 出典:環境省資料

 PFASは既に海に流れ出ていて、海底の土砂にはどの程度蓄積しているのか、魚介類(アナゴ、ウナギ、スズキ、クロダイ、タイ、カレイ、タコ、シャコ、アサリ、シジミ、ノリなど)への蓄積状況は如何ばかりなのか?現時点では知る由がありませんが、東京湾に限って言えば「江戸前」という言葉は死語になりつつあるのでしょうか?

四方海話 43  ー ときの話題 ー  その2    「おわり」

次回は 四方海話 44  ー ときの話題 ー  その3  です。  

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